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蝶夢

NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。

   

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秘め事

ぬるいですが一応ホラーです。
でもとってもぬるい。
モブキャラが語ります。

 ――私には、小さい頃、どうやら他の人には見えないものを視る力がありました。
え、霊感? まぁ、そういう類いのものだったのかもしれませんね。よくわかりませんけど。第六感、と呼んだ方が正しいような気もします。
 ああ、今はほとんどそういうものを見たりしません。大きくなるにつれて視なくなりましたね。それでも何となく、ここは良くない場所だとか、何か不吉なものを感じて、後で調べてみると曰く付きの場所だった、なんてことはあります。

 そう、こういう仕事ですから。よく行くんですよ、その手の場所に。特に夏場は、視聴率が取れるからとか何とかで。面白半分に行かない方がいいのに。
 今から話そうとしてるのは、こないだ公開した映画、あのロケ中に起こったことです。そうその、今旬の若手女優さんが主演の。それです。他に、爽やかな、それでいて影のある俳優さんが出演られてたじゃないですか。はい、その方。名取さんですよ。あの映画のストーリー自体はホラーじゃないんですけどね。ロケ地が、ちょっと。ロケ地っていうか、その間宿泊してた所が問題だったんです。
 役者さん達は、もっといい旅館に泊まられたんですけどね、スタッフ数人は安くて小さな民宿に泊まったんです。二泊三日。私はそことは違う民宿にしましたけど。

 その民宿は、部屋が五つしかないんです。しかも一人一部屋の、とても狭い部屋。
中は椅子と机が置いてあって、何でも昔は民宿じゃなく浪人生にアパートとして貸してたみたいですね。その時の名残で、勉強机とパイプ椅子。外には廊下があって、それぞれの部屋に別れてるんです。木の枠に磨りガラスの嵌まった、昭和の懐かしい引き戸が印象的でした。
 でも、ですね。初日から何かその部屋変だったんですよ。どれか一つの部屋が、っていう訳じゃなく。全部、です。あの建物、異様ですよ。

 最初に気付いたのは、その五つの部屋に泊まった五人の内、一番年長のスタッフでした。結構几帳面な方で、だから気づかれたんでしょうね。
 民宿に一度荷物だけおいて、みんな撮影に臨みました。その時に、彼、ぴたりとカーテンを閉めて行ったらしいんです。民宿の前の道路から、その窓が見える位置の部屋でした。初日の撮影が終わってその宿に戻ったら、開いてるんですよ、カーテンが。誰かがそこから外を眺めてた、みたいにね。
 民宿の経営者の可能性? それはないでしょうね。あまりサービスしてくれるような宿でもなかったし。物取りもないですね、全然荒らされてなかったらしいですから。鍵も勿論掛かってた。ただ、カーテンが少し、開いていた。それだけです。

 でも、気味が悪いじゃないですか。几帳面な方だったから余計気にされたんでしょう、誰か入ったんじゃないかって。みんなでもう一度集まった夕食の時に、私を含む一部のスタッフに相談したんです。
 ああ、それだけなら勘違いとも思えますよね。そうじゃないんですよ、この民宿は。


 夕食を終えて、その後のミーティングに残る者、民宿に帰る者に分かれたんです。一番下っぱの新人の子二人、両方男の子で。件の民宿に泊まった五人中彼らがミーティング不参加で、あとの三人は出席。二人は真っ直ぐ民宿に戻ったそうです。さっきも言いましたけど、民宿と言っても前は浪人生の下宿先になってたような所だから、経営者の方が入り口でお迎え、みたいなのは一切ないです。鍵渡されて、あとはお好きにどうぞっていう。経営者の方、つまり元大家さんですが、別の所に住んでらっしゃいました。ほら、もうその辺から、ちょっと怪しいでしょう?
 新人二人の片方、一人はさっきの几帳面な年長の方の隣の部屋で、もう一人の子は一番隅の、一番小さな部屋。角部屋です。次に事が起こったのは、角部屋の子の方です。

 二人、それぞれ宛がわれた部屋に籠ってて、暫くすると角部屋の子は隣の部屋から、キィ、キィ、って音が聞こえてきたそうなんですよ。わかります? 机と椅子が置いてあるって、始めに話しましたよね。その椅子が古いパイプ椅子で、それが軋む音ですよ。座って、前後に揺すった時に出る音です。隣の部屋はミーティングに参加中で留守のはずなんですがね。ああこれはおかしいぞって、その子、ぞっとしたらしいです。
 他のメンバーが帰ってきて、皆に話したらしいんですけど。気のせいだろって笑われて。可哀想にね。

 翌朝には、スタッフ全員の間で噂になってましてね。夜中、変なことが色々起こったみたいなんです。五人、青い顔をして。所謂金縛りにあったのが一人、廊下を誰かがパタパタ走るのを聞いたのが一人。勿論、誰も夜中にそんなことしてないって。新人の子、先ほどの角部屋じゃない子の方も、磨りガラスの向こうに何かがじぃっと立ってるのを見たって言ってましてね。白い影。そんな風に見えたそうです。
主演の女の子は本気で怖がっちゃって。ホラーは苦手なんだとか。けど、物好きな人っていうのは何処にでもいるもんです。そう、名取さん。名取さんはその手の話に興味があるみたいで、五人に直接聞かれてましたよ。

 その日の昼休、一部のスタッフでその民宿に遊びに行こうって話になりました。私は嫌だったんですが、仲間の一人が以前他の番組で一緒になったことがあった奴で、私がそういうのに敏感だって知ってたんですよ。だから無理矢理連れていかれて。それで中を見たんです。でも早々に一人出ました。何だか陰気なんです、その建物。日が当たらないってわけでもないのに。
 民宿を出ると、表の道路に名取さんがいました。眼鏡をかけていらっしゃったので、一瞬気づくのが遅れたんです。名取さんはじっと建物をご覧になってましたね。それから私に気がつくと、「あぁ、中に入られましたか?」って仰有って。
「はい、無理矢理。でも嫌です、私は。こういうの苦手です。…名取さんは?」
「私も別に好きではないですよ。ただちょっと気になったもので」
私、名取さんが眼鏡をかけている所を初めて見たんですが、レンズ越しの彼の目はまるでビー玉みたいな、澄んだ、とても不思議な色合いをしているように見えました。
「名取さんは、幽霊とかそういうの、信じますか?」
「さぁ…別に、どちらでも」
「私は信じますよ。昔、視たことがあるんです」
 その時の名取さんの私を見る目がとても優しいような、懐かしいものを見るような、ちょっと切ないような。たぶん、私の顔は赤くなってたと思います。子どもっぽいって思われたのかも知れません。でも、そう信じてるんです。昔見たと思ってるもの、存在は不確かですが、きっとあるって。

 あ…そうですね、確かに。視える人にとっては信じる信じないの対象じゃないでしょうね。だって、見えてるんだから。存在してる、か。そっか、その発想はなかったなぁ。

 そして、二日目の晩。明日の朝には出ていく夜です。その夜、初日の夜よりもっと不思議なことが起こったみたいなんです。
 夜中に、初日金縛りにあった人なんですけど、寝ていたら磨りガラスの引き戸がいきなりガラッと開いたらしいんです。勿論誰も居ません。ただ、足音だけが聞こえるそうです。ミシッ、ミシッ、って。畳の軋む、何かが踏みしめる音が。それが段々近づいてくるんです。もうその人怖くて。布団の中で固まってたって。すぐ側まで足音が近づいて、止まった。悲鳴を上げたい、だけど声が出ない。そしたら。
 ――バサバサバサッて何か軽いものが物凄い勢いで飛んでくる音がしました。視線だけを動かすと、白い紙みたいなものが、視界の端に映って。その大量の紙切れが何だかよくわからない影のようなものに襲いかかって、恐怖のあまり目をぎゅっと瞑ったらしいです。
 気がついたら朝でした。昨夜の不思議な光景は何だったのか、他のメンバーにその人が話したら、俺のとこには黒い髪の毛が天井からぶら下がってたっていう人もいました。他に、太刀が見えたって人も。

 その民宿で起こったオカルト現状はこれで終わりです。何だったのか、未だによくわかりません。お祓い? してもらった方がいいですかね、やっぱり。でも何となく大丈夫だと思います。その手の話が好きな友人に聞いたら、どうも地縛霊らしいです。場所に留まって、動けないタイプですね。無事みんな帰れたなら、大丈夫だろうって。
 出発前、もう一度私は民宿の前を通りました。やっぱり名取さんが、昨日と同じように立って建物を見ていました。昨日と違うのは、眼鏡をかけていらっしゃらなかったことです。名取さんは私に気づかれませんでした。彼は立ち去る時、ふっと微かに笑って「…ひいらぎ」、そんな風に呟かれたように聞こえました。それで私に背を向け、ゆっくり歩き出しました。その後ろを着物姿の女性がついていくのを、私は一瞬視た気がします。いえ、きっと視ました。
何だったんでしょうね。名取さんの守護霊か何かか…。それが、とても綺麗な光景でした。顔が見えた訳でもないんですけど、一歩下がってついていく、そうやって守ってる、ように思えたんですね。とても馴染んでる、自然な、穏やかな空気が。私には美しく思えました。
 つまらない話ですみません。心霊体験って言っても、よくあるような展開でそんなに怖くなかったでしょう? 実話なんてそんなもんですよ。

 …そうですね、今度名取さんにお会いしたとき。あの女性について聞いてみたいような気もしますね。だけど聞きませんよ、きっと。
 何だか、他人が易々と立ち入っちゃいけないもののように思えるんですよ。

そう、秘め事、そんなもののように。











某所にある浪人生向けの下宿先で私の叔父が体験した話を元に。(もう30年ぐらい前の話です)


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プロフィール

HN:
黒蜜
性別:
女性
自己紹介:
社会人。
亀更新、凝り性で飽き性。
NL偏愛。
葛藤のあるCPだと殊更ハマる。
王道CPに滅法弱い。それしか見えない。

取り扱いCP:リクつら・名柊(夏目)・ネウヤコ(弥子総受け)・通行止め・イチルキ・ギルエリ・鷹冬(俺様)・殺りん・男鹿ヒル・銀妙・ルナミetc
その時々に書きたいものを、書きたいペースで。

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