蝶夢
NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。
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月やあらぬ 六
リクカナスタートのリクつら(途中竜つら要素含む)
竜二さん視点。
色気より食い気な竜+つら。
この二人の絡みもえる。
竜二さん視点。
色気より食い気な竜+つら。
この二人の絡みもえる。
この世のあらゆる万物は、陰と陽とに分けられる。闇と光、水と火、女と男。相反する存在は、しかしどちらか一方のみでは決して存在し得ない。それが陰陽道の考え方だ。妖と人も、同様に。以前のオレはそれが認められなかった。
女の濡れた腕を掴むと、ひんやりとした温度が伝わった。雪女なのだから当然っちゃ当然か。女は道路にへたり込んだまま、顔を上げようとしない。面倒くせぇな、思わず舌打ちを零す。なんだってこんなのに関わっちまったんだ。雨は依然として止まず、全身ずぶ濡れの女を一層悲惨な様に見せていた。
「…おい」
声をかけるとぴくりと肩が反応して、ちゃんと意識があることはわかった。ならまだマシだな。
「…邪魔になるから立て」
傘の守備範囲から出たオレの腕も、女と同じように濡れてシャツの色が変わる。よろよろと立ち上がろうとして右足に負荷がかかった途端、がくんと崩れた。そういえば陸橋の階段から派手に転がり落ちたようだった。捻挫ぐらいはしているかもしれん。妖怪のくせに。雪女のくせに。自力で治せねぇもんなのか、ちらりと考えたが、それを口に出したりはしなかった。出せなかった。
「…ほっとけばいいのに」
女がぽつんと呟いた。
「…同感だ」
なのにわざわざ、一度見て見ぬふりをしたのを戻ってきてやってんだ、そんな自分が不可解だ。妖怪絡みじゃねぇし、リクオの野郎が助けにくるかもしれねぇのに、この女を助ける義理なんざどこにもねぇのに。けれど、オレが手を貸さなきゃ、この馬鹿はずっと座り込んだまま雨に濡れ続けているんだろうと想像がついた。想像できたから、仕方なしに女の身体を俵担ぎに持ち上げる。この際シャツが濡れるのは諦めた。女はきゃあと悲鳴を上げた後(やめろオレが痴漢みたいじゃねぇか)、「何するのよ!」と騒いだ。
「煩い、騒ぐな。歩けないんだろうが」
だからってやり方が、イヤーどこ触ってんの助けてリクオ様ぁ! とまぁ煩ェのなんの。いい加減にしないと落とすぞ、と脅して漸く大人しくなった。雪女ってのは氷の妖怪なんだから氷のような身体を想像してたが、ひんやり程度でさほど冷たくはない。おまけに軽いし柔らかい。
「待って、どこに連れてく気?」
「あぁ? どこって、リクオん家に決まってんだろ」
お前、そこに住んでんだろうが、言うと、ぶんぶん首を振られた。
「いい、いいわ、やっぱり降ろして! 落としてもいいから降ろして」
「は?」
コイツ何言ってんだ、と首を向けてみると、雨に濡れた瞳が訴えかけていた。けれどすぐに逸らされた。
「…あー…」
これは。アレか。
「めんどくせぇ…」
なんとなく、たぶん察する必要のないものを察してしまった気がする。
「…けど、その足だろうが」
妖怪と言えど、痛いモンは痛いんだろうが。オレの気遣いを、可愛げのない雪女がぶち壊す。
「別に…これくらい大したことないわよ」
嘘つけ。さっきよろけてただろうが。右足首をぐっと握ってやった瞬間、びくっと肩が揺れて息を飲む音が漏れた。
「…ほぉ、大したことない、ね」
「っ、そんなぎゅってされたら、誰だって痛いわよ!」
帰りたくないなら素直にそう言やいい。変な意地張るからだ。尤も、そういうところは少し、妹と似ている。だからオレはコイツのことが割と気に入っているらしかった。
大学進学と共にオレは上京した。実家を離れての、独り暮らし。こいつが意外と面倒臭い。飯はいちいち準備せにゃならん。家事っつーのは終わりがない。必然的に外食やコンビニ食が多くなる。買い物途中の雪女とばったり再会したのも、そんな折だった。その頃の雪女は、それ以前オレが認識していたのと同様に、よく言や天真爛漫、悪く言や能天気、二言目にはリクオリクオだ。相変わらずリクオにべったりだな、皮肉も交えて言ってやると「そうね、もう心置きなく傍にいられるのも、あと少しでしょうし」などと答える。その言葉が妙に耳に残った。群青の空を見つめる横顔が、珍しく切なげだった。こいつ、こんな顔もするのかと、それが印象的だった。
雨の中、動こうとしない女に構ってしまったのは、そういう一面を知ってしまっていたせいかも知れない。
「…じゃあ、オレんとこ寄るか」
探しゃ包帯くらいあんだろ、そう思って言った台詞だったが、よくよく考えてみれば良くない言葉だった。一応、変な意味じゃねぇことを示唆しようと口を開きかけたところ、雪女はすんなりと頷いた。
「…ちっとは危機感を持て」
「…何の?」
「アホ」
「何でそうなるのよ?!」
俄にキイキイ言い出した雪女を抱えたまま(そんだけ騒げんなら平気か)、オレもこいつもずぶ濡れで下宿先へ帰った。玄関先で降ろして、バスタオルをぶん投げてやって、着替えて包帯探して巻いてやって、人心地ついた後、またおぶって帰してやった。我ながら甲斐甲斐しい兄気質だ。実の妹にでさえここまですることは滅多にない。
雪女と時々何となく会ったり(大概この曜日のこの時間帯にここを通る、というのがお互いわかったためだ)、そのついでに飯を分けてもらったりするようになったのは、それからだ。思えばオレにとってのメリットはでかい。タダ飯も食える。妖怪についての知識も入る(しかもリアルタイムの情報だ)。妖怪ではあるが、それなりに信頼の置ける女だしな。共に戦線を潜り抜けた相手だ。雪女にとってのリクオのことも、譲れないものがあるんだろう。芯のある女は嫌いじゃない。
陰と陽、妖怪と人。そして、その中間に位置するもの。そういうものが赦せなかった頃の自分というのは、今思えば青臭い。知ってみれば存外に面白かったりするもんだ。
雪女の、からかいがいのある性格が、そうであるように。
女の濡れた腕を掴むと、ひんやりとした温度が伝わった。雪女なのだから当然っちゃ当然か。女は道路にへたり込んだまま、顔を上げようとしない。面倒くせぇな、思わず舌打ちを零す。なんだってこんなのに関わっちまったんだ。雨は依然として止まず、全身ずぶ濡れの女を一層悲惨な様に見せていた。
「…おい」
声をかけるとぴくりと肩が反応して、ちゃんと意識があることはわかった。ならまだマシだな。
「…邪魔になるから立て」
傘の守備範囲から出たオレの腕も、女と同じように濡れてシャツの色が変わる。よろよろと立ち上がろうとして右足に負荷がかかった途端、がくんと崩れた。そういえば陸橋の階段から派手に転がり落ちたようだった。捻挫ぐらいはしているかもしれん。妖怪のくせに。雪女のくせに。自力で治せねぇもんなのか、ちらりと考えたが、それを口に出したりはしなかった。出せなかった。
「…ほっとけばいいのに」
女がぽつんと呟いた。
「…同感だ」
なのにわざわざ、一度見て見ぬふりをしたのを戻ってきてやってんだ、そんな自分が不可解だ。妖怪絡みじゃねぇし、リクオの野郎が助けにくるかもしれねぇのに、この女を助ける義理なんざどこにもねぇのに。けれど、オレが手を貸さなきゃ、この馬鹿はずっと座り込んだまま雨に濡れ続けているんだろうと想像がついた。想像できたから、仕方なしに女の身体を俵担ぎに持ち上げる。この際シャツが濡れるのは諦めた。女はきゃあと悲鳴を上げた後(やめろオレが痴漢みたいじゃねぇか)、「何するのよ!」と騒いだ。
「煩い、騒ぐな。歩けないんだろうが」
だからってやり方が、イヤーどこ触ってんの助けてリクオ様ぁ! とまぁ煩ェのなんの。いい加減にしないと落とすぞ、と脅して漸く大人しくなった。雪女ってのは氷の妖怪なんだから氷のような身体を想像してたが、ひんやり程度でさほど冷たくはない。おまけに軽いし柔らかい。
「待って、どこに連れてく気?」
「あぁ? どこって、リクオん家に決まってんだろ」
お前、そこに住んでんだろうが、言うと、ぶんぶん首を振られた。
「いい、いいわ、やっぱり降ろして! 落としてもいいから降ろして」
「は?」
コイツ何言ってんだ、と首を向けてみると、雨に濡れた瞳が訴えかけていた。けれどすぐに逸らされた。
「…あー…」
これは。アレか。
「めんどくせぇ…」
なんとなく、たぶん察する必要のないものを察してしまった気がする。
「…けど、その足だろうが」
妖怪と言えど、痛いモンは痛いんだろうが。オレの気遣いを、可愛げのない雪女がぶち壊す。
「別に…これくらい大したことないわよ」
嘘つけ。さっきよろけてただろうが。右足首をぐっと握ってやった瞬間、びくっと肩が揺れて息を飲む音が漏れた。
「…ほぉ、大したことない、ね」
「っ、そんなぎゅってされたら、誰だって痛いわよ!」
帰りたくないなら素直にそう言やいい。変な意地張るからだ。尤も、そういうところは少し、妹と似ている。だからオレはコイツのことが割と気に入っているらしかった。
大学進学と共にオレは上京した。実家を離れての、独り暮らし。こいつが意外と面倒臭い。飯はいちいち準備せにゃならん。家事っつーのは終わりがない。必然的に外食やコンビニ食が多くなる。買い物途中の雪女とばったり再会したのも、そんな折だった。その頃の雪女は、それ以前オレが認識していたのと同様に、よく言や天真爛漫、悪く言や能天気、二言目にはリクオリクオだ。相変わらずリクオにべったりだな、皮肉も交えて言ってやると「そうね、もう心置きなく傍にいられるのも、あと少しでしょうし」などと答える。その言葉が妙に耳に残った。群青の空を見つめる横顔が、珍しく切なげだった。こいつ、こんな顔もするのかと、それが印象的だった。
雨の中、動こうとしない女に構ってしまったのは、そういう一面を知ってしまっていたせいかも知れない。
「…じゃあ、オレんとこ寄るか」
探しゃ包帯くらいあんだろ、そう思って言った台詞だったが、よくよく考えてみれば良くない言葉だった。一応、変な意味じゃねぇことを示唆しようと口を開きかけたところ、雪女はすんなりと頷いた。
「…ちっとは危機感を持て」
「…何の?」
「アホ」
「何でそうなるのよ?!」
俄にキイキイ言い出した雪女を抱えたまま(そんだけ騒げんなら平気か)、オレもこいつもずぶ濡れで下宿先へ帰った。玄関先で降ろして、バスタオルをぶん投げてやって、着替えて包帯探して巻いてやって、人心地ついた後、またおぶって帰してやった。我ながら甲斐甲斐しい兄気質だ。実の妹にでさえここまですることは滅多にない。
雪女と時々何となく会ったり(大概この曜日のこの時間帯にここを通る、というのがお互いわかったためだ)、そのついでに飯を分けてもらったりするようになったのは、それからだ。思えばオレにとってのメリットはでかい。タダ飯も食える。妖怪についての知識も入る(しかもリアルタイムの情報だ)。妖怪ではあるが、それなりに信頼の置ける女だしな。共に戦線を潜り抜けた相手だ。雪女にとってのリクオのことも、譲れないものがあるんだろう。芯のある女は嫌いじゃない。
陰と陽、妖怪と人。そして、その中間に位置するもの。そういうものが赦せなかった頃の自分というのは、今思えば青臭い。知ってみれば存外に面白かったりするもんだ。
雪女の、からかいがいのある性格が、そうであるように。
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無題
続きも楽しみにしてます♪