蝶夢
NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。
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然れど未だ始まらず
ヒルダさんが記憶を失ってあの性格ってことは、
今まで彼女は色々気負って生活してたんじゃないのかとか考えてできたお話。
無自覚夫婦にもえる。
今まで彼女は色々気負って生活してたんじゃないのかとか考えてできたお話。
無自覚夫婦にもえる。
女兄弟のいる男は、得てして女の扱いに長けるらしい。
それは目の前の男にも当てはまるようだとヒルダは密かに分析する。ストイックである、とも言える。馬鹿で碌でもないドブ男だが、その点はそれなりに評価してやっても良い。色欲に節制がないのは、坊っちゃまに悪影響を与えかねない。まぁそれもこれもすべてあの姉上のお陰だろう。
と、冷静に考えているのには訳がある。例えばおつかいを頼まれた時、必ず男鹿が荷物を持つ。選んでいる間も、会計を終えた後も、何も言わず然り気無く持ってくれる。然り気無さすぎて、はじめヒルダは気づかなかったくらいだ。一人で出かけて帰宅途中に出会した際も、それは変わらない。侍女悪魔たる自分にそのような気遣いは不要、などと告げるタイミングを逃したばかりか、存外有り難く思っている自分がいたため、何を言うともなく甘えている。例えば毎月の憂鬱な日がやって来た時、男鹿はいつもより積極的にベル坊の面倒を見てくれる。女であるが故仕方のないことだが、眠気や鈍痛に煩わしさがあるのも事実だ。特に何か言ったわけではないし、いつも通り過ごしているつもりだが、それとなく察するものらしい。やはり侍女悪魔たる自分にそのような気遣いは不要、だと思うのだが、あからさまでなく然り気無いので分かってやっているのかも疑わしく、従ってヒルダが男鹿にそれを告げたことはなかった。
そして今この現状である。ヒルダは裸体にバスタオルを巻いただけの状態で、男鹿が戻ってくるのを待っている。コンコン、と脱衣場のドアがノックされて、ドアを開けた。
学校からの帰り道、土砂降りの雨に見舞われた男鹿とヒルダは、ヒルダの持っていた一本の傘で何とか凌いだのだが、ベル坊を濡らさないようにするだけで精一杯だった。
家に駆け込んでベル坊をどちらが風呂に入れるかで揉め、洗濯物を取り込まねばならんから貴様がお入れしろというヒルダの主張は、もう今更取り込んだって遅ぇんだから先入れ、という男鹿の反論によって却下された。
ベル坊の体が十分温まったことを確かめてから浴槽を出たヒルダは、そこではた、と気付く。着替えがない。部屋から取ってくるのを忘れた、という問題でなく、全て物干しで濡れてしまっているはずだ。バスタオルを体に巻きつけたまま、少し思案した。意を決して、脱衣場から男鹿を呼ぶことに決めた。
「なんだ、上がったか」
「ああ、坊っちゃまを」
ドアを半分ほど開けておいて、自分の体を隠しながら男鹿にベル坊を預けた。そして、どう言ったらいいのかまだ決めかねながらも言葉を続けた。
「それで…私の着替えなんだが、」
「あ? 持って入るの忘れたのか?」
「いや、それが、全部洗濯してしまっていてな」
「替えがないって?」
はぁ、と落ちた溜息にむっとする。
「…姉きのタンス、勝手に漁ったら殺されるしな…とりあえず俺ので我慢しろ。持ってきてやるから」
男鹿はくるりと踵を返して部屋へと向かった。その姿に小さく息を吐く。思いの外緊張していたらしい。ドブ男相手におかしなことだと薄く笑う。
ベル坊の契約者が男であった場合、 寝食を供にする内に可笑しな、ある意味で仕方のない欲求を向けられることがあるやも知れぬと実は肩を張っていた。侍女悪魔は自分一人しかいないのだ、主を守れるのも自分一人だけ。自分の身を守るのも、当然自分しかいない。男鹿がベル坊を託すに足るのか、信頼できる相手なのか。わからない内は必要以上に高圧的にならざるを得なかった。情けない話だが、それは自分のためでもあったのだろう。けれど蓋を開けてみれば、何てことはない、只の喧嘩馬鹿な子どもだった。親としてはあまりに足りない、しかし信用できる人間だった。それでいい、こうして彼と慣れた今となっては、それでよかった。本人には絶対に言わないが、ヒルダはそう安堵している。
ノックされ、カチャリと滑らかな音を立ててドアを開ける。男鹿がほら、といつもの白地のTシャツとジーンズを、差し出すと表現するよりは突き出した。ヒルダがそれを受け取ったと確認したかしないかの早さで「じゃ」と言って男鹿の方から閉められた。なんだか腑に落ちない。何が腑に落ちないのかは、よくわからないが。ヒルダはそれを脇に放って、Tシャツを頭から被った。流石に大きすぎてワンピースの状態になる。ジーンズは腰回りと丈が合わないため、はなっから諦めた。それぐらい少し考えればわかるだろうに。やはり馬鹿だなとごちて、漸く脱衣場から出るに至った。
リビングに入ると男鹿がベル坊の相手をしていた。風呂に入って温まったためか、うつらうつらしている。それを邪魔しないよう、控えめに声をかけた。
「上がったぞ。次は貴様だ。貴様が風邪を引くのはかまわんが、坊っちゃまにうつしたら殺すぞ」
「あぁ、…あ?!」
振り向いた男鹿がヒルダの姿を見て声を上げた。瞬間、ベル坊がぐずり出す。慌ててそれをあやして、二人はほっと息を吐いた。
「いきなり大きな声を出すな、馬鹿者」
「お前、ジーパンどうした」
声は小さくなったが、眉間に皺が寄っている。なんだそんなことかとヒルダは呆れた。
「穿けるわけがなかろう、腰回りと丈が合わん。返すぞ」
あっそ、と返ってきたが、全く納得していない声音だった。
「とにかく姉きの借りて、さっさと着替えろよ」
実の弟である男鹿が勝手に漁れないタンスを居候の自分が触るわけにいくまい、と思ったが、口にするより先に男鹿は風呂場に向かってしまった。
何だというのか。ヒルダは憮然としてその背を見送っていた。自分の格好を見下ろすが、太ももこそいつもより露出しているとはいえ特に問題があるように思われない。丈が問題なのかとも考えるが、別段赤面するでもなかったし、というか赤面しているところなど見たことがないので想像もつかない。慣れているのかストイックなのか色々考えてみたものの、単に興味のないだけという気がしてきた。
「…餓鬼か」
ほっとしたような、がっかりしたような。そんな自分をふっと笑って、いとおしげにベル坊の寝顔を見つめた。
「昨日の雨すごかったよな。オレ、折り畳み傘さしたけどびしょ濡れでさー。お前、昨日はヒルダさんと一緒に帰っただろ? 大丈夫だったか?」
「あー、ヒルダの傘があったからベル坊だけは無事だったけど、オレもあいつもびしょびしょで帰って、家着いたらソッコーで風呂に入れた」
答えて、男鹿は昨日の有り様を思い出し眉根を寄せた。どちらがベル坊を入れるかで、ヒルダは洗濯物の心配を理由に男鹿が先に入るよう命じたが、男鹿は断固反対した。本人は気づいていないようだったが、いつものゴスロリではなく制服姿だったため、濡れたシャツが透けていた。そんな状態でうろうろさせるわけにいかない。
「…まさか一緒に入ったんじゃないよな? 風呂」
「アホか」
古市のふざけた質問に男鹿は溜め息を吐きたくなった。事あるごとの質問からコイツは何か夢を見ていると思っていたが、やっぱりヘンな理想を描いているらしい。こういう時殺してやろうかといつも思う。
最近のヒルダは時々酷く無防備だ。それは、自分を信用しているからに他ならない。もっと前、まだ今ほどお互い慣れない時にちょっと肩に手が当たっただけで、大げさなほどびくりとされたことがあった。次の瞬間思いっきり睨まれたが、あれは怯えられたように思う。こっちとしてはそんなつもり毛ほどもなかったのにと、腹立たしいような、ショックのような、未だかつてない込み入った感情を抱える羽目になった。今思い出しても苦々しいが、ヒルダの反応に対してなのか、あの時の自分自身に対してなのか、よくわからない。結局その時はそのことに一切触れず、何事もなかった風を装った。けれど何故か、自分が何かをやらかしたような、もやもやとした感覚を持て余した。意味がわからない。何もしてねぇっつーの。この台詞は実際何度も古市に言っているし、あの時も内心で思ったことだった。なのにどこか言い訳臭いのを、男鹿はぼんやり気づいていて、それが納得できないでいる。
そんな訳で色々古市死ねと思うのだ。
「お前、ヘンな妄想しすぎだろ」
「いやいやいや。あんな美女と暮らしてて、何もない方がどうかしてるね」
「お前のノーテンキさが羨ましいわ。つか、一発殴らせろ」
「お前だけには脳天気とか言われたくねぇえ!! ってか、何で!?」
何でコイツが知将とかって呼ばれてんだろ。説明するのもめんどくさい。男鹿は心の中でそう片付けて、ぽつりと一言呟いた。
「・・・意識とかしちまったら、一緒に暮らせねぇだろ・・・」
「ダブ」
ベル坊が同意するような慰めるような相槌を打ったが、本当のところは単に頷いてみただけだろう。古市はその呟きで何かを察したらしい。
「男鹿・・・」
「なんだよ」
「お前ってさ、」
ヒルダさんのこと、尊重してるんだな。
知将の言葉に、言われた方は不審者でも見るような顔をした。
「はぁ?」
「なんつーか、ちゃんと大事にしてるっつーか・・・」
わけがわからん、という表情を浮かべられて、「わかんねーならいいけど」と古市はあっさり諸々を放棄した。こればっかりは他人が言っても仕方ない。
「でもやっぱお前の方がいい目見てるぞ絶対」
古市は自分の家の居候を思い浮かべて遠い目をした。
それは目の前の男にも当てはまるようだとヒルダは密かに分析する。ストイックである、とも言える。馬鹿で碌でもないドブ男だが、その点はそれなりに評価してやっても良い。色欲に節制がないのは、坊っちゃまに悪影響を与えかねない。まぁそれもこれもすべてあの姉上のお陰だろう。
と、冷静に考えているのには訳がある。例えばおつかいを頼まれた時、必ず男鹿が荷物を持つ。選んでいる間も、会計を終えた後も、何も言わず然り気無く持ってくれる。然り気無さすぎて、はじめヒルダは気づかなかったくらいだ。一人で出かけて帰宅途中に出会した際も、それは変わらない。侍女悪魔たる自分にそのような気遣いは不要、などと告げるタイミングを逃したばかりか、存外有り難く思っている自分がいたため、何を言うともなく甘えている。例えば毎月の憂鬱な日がやって来た時、男鹿はいつもより積極的にベル坊の面倒を見てくれる。女であるが故仕方のないことだが、眠気や鈍痛に煩わしさがあるのも事実だ。特に何か言ったわけではないし、いつも通り過ごしているつもりだが、それとなく察するものらしい。やはり侍女悪魔たる自分にそのような気遣いは不要、だと思うのだが、あからさまでなく然り気無いので分かってやっているのかも疑わしく、従ってヒルダが男鹿にそれを告げたことはなかった。
そして今この現状である。ヒルダは裸体にバスタオルを巻いただけの状態で、男鹿が戻ってくるのを待っている。コンコン、と脱衣場のドアがノックされて、ドアを開けた。
学校からの帰り道、土砂降りの雨に見舞われた男鹿とヒルダは、ヒルダの持っていた一本の傘で何とか凌いだのだが、ベル坊を濡らさないようにするだけで精一杯だった。
家に駆け込んでベル坊をどちらが風呂に入れるかで揉め、洗濯物を取り込まねばならんから貴様がお入れしろというヒルダの主張は、もう今更取り込んだって遅ぇんだから先入れ、という男鹿の反論によって却下された。
ベル坊の体が十分温まったことを確かめてから浴槽を出たヒルダは、そこではた、と気付く。着替えがない。部屋から取ってくるのを忘れた、という問題でなく、全て物干しで濡れてしまっているはずだ。バスタオルを体に巻きつけたまま、少し思案した。意を決して、脱衣場から男鹿を呼ぶことに決めた。
「なんだ、上がったか」
「ああ、坊っちゃまを」
ドアを半分ほど開けておいて、自分の体を隠しながら男鹿にベル坊を預けた。そして、どう言ったらいいのかまだ決めかねながらも言葉を続けた。
「それで…私の着替えなんだが、」
「あ? 持って入るの忘れたのか?」
「いや、それが、全部洗濯してしまっていてな」
「替えがないって?」
はぁ、と落ちた溜息にむっとする。
「…姉きのタンス、勝手に漁ったら殺されるしな…とりあえず俺ので我慢しろ。持ってきてやるから」
男鹿はくるりと踵を返して部屋へと向かった。その姿に小さく息を吐く。思いの外緊張していたらしい。ドブ男相手におかしなことだと薄く笑う。
ベル坊の契約者が男であった場合、 寝食を供にする内に可笑しな、ある意味で仕方のない欲求を向けられることがあるやも知れぬと実は肩を張っていた。侍女悪魔は自分一人しかいないのだ、主を守れるのも自分一人だけ。自分の身を守るのも、当然自分しかいない。男鹿がベル坊を託すに足るのか、信頼できる相手なのか。わからない内は必要以上に高圧的にならざるを得なかった。情けない話だが、それは自分のためでもあったのだろう。けれど蓋を開けてみれば、何てことはない、只の喧嘩馬鹿な子どもだった。親としてはあまりに足りない、しかし信用できる人間だった。それでいい、こうして彼と慣れた今となっては、それでよかった。本人には絶対に言わないが、ヒルダはそう安堵している。
ノックされ、カチャリと滑らかな音を立ててドアを開ける。男鹿がほら、といつもの白地のTシャツとジーンズを、差し出すと表現するよりは突き出した。ヒルダがそれを受け取ったと確認したかしないかの早さで「じゃ」と言って男鹿の方から閉められた。なんだか腑に落ちない。何が腑に落ちないのかは、よくわからないが。ヒルダはそれを脇に放って、Tシャツを頭から被った。流石に大きすぎてワンピースの状態になる。ジーンズは腰回りと丈が合わないため、はなっから諦めた。それぐらい少し考えればわかるだろうに。やはり馬鹿だなとごちて、漸く脱衣場から出るに至った。
リビングに入ると男鹿がベル坊の相手をしていた。風呂に入って温まったためか、うつらうつらしている。それを邪魔しないよう、控えめに声をかけた。
「上がったぞ。次は貴様だ。貴様が風邪を引くのはかまわんが、坊っちゃまにうつしたら殺すぞ」
「あぁ、…あ?!」
振り向いた男鹿がヒルダの姿を見て声を上げた。瞬間、ベル坊がぐずり出す。慌ててそれをあやして、二人はほっと息を吐いた。
「いきなり大きな声を出すな、馬鹿者」
「お前、ジーパンどうした」
声は小さくなったが、眉間に皺が寄っている。なんだそんなことかとヒルダは呆れた。
「穿けるわけがなかろう、腰回りと丈が合わん。返すぞ」
あっそ、と返ってきたが、全く納得していない声音だった。
「とにかく姉きの借りて、さっさと着替えろよ」
実の弟である男鹿が勝手に漁れないタンスを居候の自分が触るわけにいくまい、と思ったが、口にするより先に男鹿は風呂場に向かってしまった。
何だというのか。ヒルダは憮然としてその背を見送っていた。自分の格好を見下ろすが、太ももこそいつもより露出しているとはいえ特に問題があるように思われない。丈が問題なのかとも考えるが、別段赤面するでもなかったし、というか赤面しているところなど見たことがないので想像もつかない。慣れているのかストイックなのか色々考えてみたものの、単に興味のないだけという気がしてきた。
「…餓鬼か」
ほっとしたような、がっかりしたような。そんな自分をふっと笑って、いとおしげにベル坊の寝顔を見つめた。
「昨日の雨すごかったよな。オレ、折り畳み傘さしたけどびしょ濡れでさー。お前、昨日はヒルダさんと一緒に帰っただろ? 大丈夫だったか?」
「あー、ヒルダの傘があったからベル坊だけは無事だったけど、オレもあいつもびしょびしょで帰って、家着いたらソッコーで風呂に入れた」
答えて、男鹿は昨日の有り様を思い出し眉根を寄せた。どちらがベル坊を入れるかで、ヒルダは洗濯物の心配を理由に男鹿が先に入るよう命じたが、男鹿は断固反対した。本人は気づいていないようだったが、いつものゴスロリではなく制服姿だったため、濡れたシャツが透けていた。そんな状態でうろうろさせるわけにいかない。
「…まさか一緒に入ったんじゃないよな? 風呂」
「アホか」
古市のふざけた質問に男鹿は溜め息を吐きたくなった。事あるごとの質問からコイツは何か夢を見ていると思っていたが、やっぱりヘンな理想を描いているらしい。こういう時殺してやろうかといつも思う。
最近のヒルダは時々酷く無防備だ。それは、自分を信用しているからに他ならない。もっと前、まだ今ほどお互い慣れない時にちょっと肩に手が当たっただけで、大げさなほどびくりとされたことがあった。次の瞬間思いっきり睨まれたが、あれは怯えられたように思う。こっちとしてはそんなつもり毛ほどもなかったのにと、腹立たしいような、ショックのような、未だかつてない込み入った感情を抱える羽目になった。今思い出しても苦々しいが、ヒルダの反応に対してなのか、あの時の自分自身に対してなのか、よくわからない。結局その時はそのことに一切触れず、何事もなかった風を装った。けれど何故か、自分が何かをやらかしたような、もやもやとした感覚を持て余した。意味がわからない。何もしてねぇっつーの。この台詞は実際何度も古市に言っているし、あの時も内心で思ったことだった。なのにどこか言い訳臭いのを、男鹿はぼんやり気づいていて、それが納得できないでいる。
そんな訳で色々古市死ねと思うのだ。
「お前、ヘンな妄想しすぎだろ」
「いやいやいや。あんな美女と暮らしてて、何もない方がどうかしてるね」
「お前のノーテンキさが羨ましいわ。つか、一発殴らせろ」
「お前だけには脳天気とか言われたくねぇえ!! ってか、何で!?」
何でコイツが知将とかって呼ばれてんだろ。説明するのもめんどくさい。男鹿は心の中でそう片付けて、ぽつりと一言呟いた。
「・・・意識とかしちまったら、一緒に暮らせねぇだろ・・・」
「ダブ」
ベル坊が同意するような慰めるような相槌を打ったが、本当のところは単に頷いてみただけだろう。古市はその呟きで何かを察したらしい。
「男鹿・・・」
「なんだよ」
「お前ってさ、」
ヒルダさんのこと、尊重してるんだな。
知将の言葉に、言われた方は不審者でも見るような顔をした。
「はぁ?」
「なんつーか、ちゃんと大事にしてるっつーか・・・」
わけがわからん、という表情を浮かべられて、「わかんねーならいいけど」と古市はあっさり諸々を放棄した。こればっかりは他人が言っても仕方ない。
「でもやっぱお前の方がいい目見てるぞ絶対」
古市は自分の家の居候を思い浮かべて遠い目をした。
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