忍者ブログ

蝶夢

NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。

   

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

理想の上司

前に書いたやつ。
東方司令部時代。







「先日大尉以下に行った、『第一回東方司令部における理想の上司』アンケートの結果が出ました」



「む。そうか。早速報告してくれたまえ」
「大佐、随分余裕そうっスけど、1位は大佐じゃないですよたぶん」
「何を言うハボック。東方司令部の顔とも言える私が、理想の上司でないはずがなかろう?」
「ハボック少尉に同感です」

「えー、ま、報告といきやしょうかい。まずは理想の上司第2位! …ハボック!」
「おぉ、マジでか」
「すごいじゃないですか少尉!」
「何かの間違いじゃないでしょうか?」
「あぁ、何回も確かめ直させたが何度やってもこの結果だった。おかしいと思わんか?」
「思いますね。何かしら調査をいれた方がいいのでは?」
「オイこら、聞こえてんぞ」
「何はともあれ、理由を聞こう」
「へいへい。理由、『面倒見がいい』『かっこいいっす』『喫煙家の星!』『あの大佐の下で働く男性はみんな尊敬してる』」

「…最後の、切実ですね…」
「…あぁ! 勇気をもらったな!」
「私のような有能な大佐の下で働くのは大変だろう。と、こういうわけだな」


「「「「………」」」」


「…と、まぁハボックは小隊からの支持が多かった」
「何故流した」
「気のせいでしょう。お気になさらず」

「因みに2位と1位の間には、歴然たる差がある」
「ふふん。ほらなハボック。どうだ参ったか」
「1位が大佐と決まった訳じゃないでしょう。私の考えでは違う人間ですね。少なくとも私は大佐以外に入れましたよ」
「俺も大佐じゃない人間に入れた。曹長は?」
「え! いや、僕は…。…僕も、違う人間に入れました、けど」
「そらみろ。ブレダ、結果を」
「了解。1位はこの人! …ホークアイ中尉!」
「やはりですな」
「待て。1位の中尉はわかるが、2位のハボックはわからん。何故ハボックに私が負けるんだ。ハボック貴様、何か仕組んだだろう」
「大佐は僅差で3位です。女性からの票だけですが」
「当たり前だ。野郎からの票なんぞ欲しくもない」
「そういうのがダメなんじゃないスかね」
「さすがですね! 僕は中尉に入れましたよ」
「それは聞き捨てならんな曹長。私が理想的ではないとでも?」
「え!? いや、あの、決して、そんなことは…!」
「曹長、はっきり言った方が大佐のためですよ。理想からは最も遠いと」
「ほー、消し炭になりたいなら早く言いたまえ准尉」
「とにかく理由を聞きましょう。ブレダ少尉お早く!」
「俺ら以下下っ端連中は、あんま佐官以上の上官と関わることが少ないからな。少尉から大尉までの官位に票が集中するってのもあんだろ。てことで発火布仕舞って下さい。…中尉は男女ともに票を獲得してるな。理由、『拳銃を構える姿に痺れた』『かっこいい』『クールビューティーで知的』『大佐への見事なお守りっぷり』『火炙りになりかけたところを助けてくれた』『軍人の鏡』」

「…理由の半分は大佐が原因だな」
「つまりは中尉の人気に私が一役買っているということか」
「上手いこと言ったつもりでしょうけど、自分で言ってて悲しくないっスかね」

「中尉は上位階級への『東方指令部における理想の部下』アンケートでも見事1位だ」
「はっはっは。有能な人間には有能な部下がつく。否、上司が有能だからこそ上手く扱うことができるということを体現しているようだな」
「部下アンケートの理由の欄にこんなのがあるぞ。『ホークアイ中尉を是非副官に…!マスタング死ね死ね死ね死ね』」
「ははぁ。相当恨みが根深いと見えます。大佐、心当たりは?」
「以前中尉をいやらしい目で見ていた、あの害虫か。とりあえず筆跡鑑定しておけ」
「職権濫用ですよ大佐」
「いけブラハ!」
「ぎゃあぁぁぁ犬っいぬぅぅぅ!!」











「――それでこんなに仕事が止まっていた。と、いうわけですね?」
「いや、まぁそれも円満な職場環境の追求という目的があったからこそのだな、」
「仕事、してください」

 ガチャ、と理想的な副官が冷たい愛銃を突きつける。慌てた大佐は一心不乱に書類に目を通しているよう振る舞った。諦念と呆れの籠った溜め息が降りかかる。中尉は銃をホルスターに直すと、自らも自席に戻り机に向かった。二人だけの執務室に、カリカリと書類に書き込むペンの音だけが静かに響く。

「…聞いてもいいか?」

 沈黙に然り気無く溶け込ませて、言葉を紡いだのは大佐だった。チラリと視線を投げると、大佐は用紙から顔を上げることなく記入している。中尉も同じように書類から目を離さずに答えた。

「…なんですか」
「君は誰の名前を書いた?」

 会話を許されるとすぐさま大佐は質問を放った。中尉は少し考えて、静かに返す。

「…それは、匿名のアンケートなので言ってはいけないんじゃないですか?」
「曹長は君の名前を書いたと言っていたぞ」
「では、黙秘権を」
「上司命令だ」
「…職権濫用ですよ」
「私の名前じゃないのか?」

 やや憮然とした面持ちで、大佐が顔を上げる。中尉は相変わらず書類から目を離さない。

「私に対し、ご自分が理想的な上司然とした振る舞いをしていたとお思いですか?」
「…それは現状への皮肉かね」

 大佐が書類にサインを施した。少し乱暴な字になった。

「いいえ。…まぁそう取って頂いても結構ですけど。私が言わんとしているのは、理想的、つまり聖人君子な大佐は私の大佐じゃないでしょう? ってことです」
「なら、一体何がいけなかったのかね」

 そうですね、と中尉は思案する。そして口を開いた。

「まず仕事サボりすぎです。探す方の身になってください、迷惑です。無暗に発火布を取り出さないでください。パワハラです。修理費も無料じゃありません、経費削減にご協力を。そして雨の日は不用意に出歩かないでください、無能なんですから。それからミニスカートは認められません。却下です。あと職権濫用と私事の持ち込みなんてもっての他ですね。今月に入って大佐に女を取られたと乗り込んできた輩が何人いると思ってるんですか? 仕事増やさないでください。最後に職務中にみだりに体を触るのはやめてください。セクハラです」
「………」
「わかっていただけましたか?」

 返事がない、ただの屍のようだ。

「大佐」

 窘めるように呼んでみるが、大佐は心ここにあらずだ。

「ミニスカ…男のロマン…いや、しかしそれは……セクハラって…セクハラって、セクハラじゃないだろう!?」
「上司が部下の体を弄るのはセクハラ、セクシャル・ハラスメントでしょう?」
「恋人の愛の確認行為と言いたまえ!」
「勤務中です!!」

 大佐はむっつりと押し黙った。椅子に深く凭れ、不服そうに顎を引いたその目が恨みがましく中尉を見つめているが、ペンを握る手はそれでも休むことなく動いていた。

「…しかし、自分の女が他の男の名を書くのは面白くない」
「そのことですが、私は白紙で出しましたよ」
「ほーぉ、ハクシ。…え? 白紙?」
「だからそうだと言ってるじゃありませんか」

 遂にペンの動きが止まった。大佐が椅子から立ち上がる。

「仕事中ですよ」
「もう終わった」

 中尉の机の傍らに来て、ぱさりと済んだ書類を置く。中尉は少々鼻を膨らませて息を吐いた。人の倍以上書類を溜め込んでいても、こなすスピードも倍以上なのだから、面白いはずがない。中尉も最後の一枚にサインした。

「…理由を聞いても?」
「簡単なことですよ。私が何のために軍に身をおいているか、ご存知でしょう?」

 トントンと書類をまとめながら、ここでやっと中尉は書類から目を離した。

「理想的な上司、なんて必要ありません」

 彼女が軍属している理由、それは己のためだということは知っていた。だから、必要ないと言う。
 リザ・ホークアイが、マスタング以外の人間を補佐することはない。上司がどんな人間であるかが問題ではないのだ。ロイ・マスタングその人であるかが要だった。だから理想的な上司はいない。マスタングだけについて行く。

「…そういうことを言うくせ、セクハラとか、卑怯だろう」
「はい? ――ちょ、たい、さ、」











「――失礼します、明日の日程…」

 ハボックが執務室に足を踏み入れた時、ドスッという音と男の呻き声を聞いた気がした。一瞬何事もなかったようにドアを閉めたくなったが、意を決して顔を上げると、予想通り腹を押さえデスクに腕をついた大佐と、まとめた書類を抱え荒々しく立ち去ろうとする中尉の姿が見てとれた。

「――さて定時までに書類が済んだようで何よりです私は提出してきますので。今回のアンケート結果を受けて大佐も色々お考えになられては如何でしょう、失礼します!」

 中尉が向かってきたため、ハボックはひょいっと脇に飛び退いた。バタン! と勢いよくドアが閉まった。

「…なんか、お取り込み中だったっスか」

 大佐からの返事はない。しかしその何も語らぬ背中から、どす黒いオーラが立ち上っていて、身の危険を感じたハボックは後退りをした。

「そっ、そういやまだ仕事が残ってたな! そんじゃ失礼しま…」
「ハボック」

 大佐がにこりと憤怒の形相を浮かべていた。



 その直後、執務室から男の悲鳴が上がったのは、また別の話。









 ――そして、それから更に数日後、とある佐官クラスの軍人が秘密裏に左遷されたのは、もっと別の話である。





PR
  

COMMENT

NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

プロフィール

HN:
黒蜜
性別:
女性
自己紹介:
社会人。
亀更新、凝り性で飽き性。
NL偏愛。
葛藤のあるCPだと殊更ハマる。
王道CPに滅法弱い。それしか見えない。

取り扱いCP:リクつら・名柊(夏目)・ネウヤコ(弥子総受け)・通行止め・イチルキ・ギルエリ・鷹冬(俺様)・殺りん・男鹿ヒル・銀妙・ルナミetc
その時々に書きたいものを、書きたいペースで。

ブログ内検索

忍者アナライズ

忍者カウンター

Copyright ©  -- 蝶夢 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / material by DragonArtz Desighns / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]