蝶夢
NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。
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包み紙
バレンタインデーのリクつらと首毛。
「そういえば…」
毛倡妓が、さも今ちょうどつい思い付いたというような口振りで呟いた。
その日は日本の製菓会社の思惑を担ったとあるイベントの日、と言ってしまえば聞こえは悪いが、しかしそれは周知の事実であり、このイベントに便乗することを良しとしている女性が多いのも現実であり、女性だけでなく世間一般の男性陣もそれとなくそわそわするらしく、昼夜ともに奴良組三代目が板についてきたリクオも、普段飄々と振る舞っているがやはり惚れた女がくれるものは嬉しい。何でも嬉しい。例えそれが凍っていても。
今年は折しも日曜日にその日がやってきたので、八ツ時にお茶請けとして出された。と言っていつもと同じように皿に乗って出てきたのではなく、きっちりと丁寧に包装されたそれは、高級メーカーのものと見紛うばかりだが、歴とした彼女の手作りだ。隣に座る首無の手元には、同じように毛倡妓から贈られたものがある。
「ありがとう」と告げれば「いいえ」とつららはほんのり頬を染めた。可愛いなぁ、とほんわり見つめるリクオの様子を端で見ている年長組もまた、二人の様子を可愛いなぁと思い、ほんわか和んでいる。
包み紙をゆっくりと外し、中身を取り出した。つららはこぽこぽと小気味良い音を立てて茶を注ぐと、リクオの前に置き、それから首無の前にも同じようにする。首無は湯呑みに口をつけ、ずずっと啜った。
すると、ここで不意に、或いは意図的に、毛倡妓が冒頭の言葉を口にした。
「包装の開け方には、女の服の脱がし方が表れるんだって」
ぶっと首無が啜っていた茶を噴いた。つららも盛大に茶をひっくり返した。しかし雪女であることが幸いして温かったため、ぶっかけられたリクオは落ち着いて布巾で拭っていた。
「へぇ、そうなんだ」
「ごごごごめんなさいリクオ様!!」
「うん、平気だよつらら」
真っ赤になりながら、慌てて手拭いで拭おうとするつららの袖が、別の湯呑みに当たりそうになるのをやんわりと押さえてやる。毛倡妓だけがしてやったりという笑みを浮かべていた。首無はまだ噎せている。
「どうです? 当たってます?」
「うーん、どうだろうね。首無はどう思う?」
「ゴホッ、えっ、は?!」
ゴホン、と咳払いをひとつして、首無は平常心を取り繕った。
「そ…そういうことは相手の女性に聞いてみないとわかりませんね」
「あ、上手く逃げた」
からからとリクオが笑う。毛倡妓は矛先を変えた。
「じゃあ雪女に聞いてみなきゃ。どう? 当たってる?」
「は……」
みるみる内に真っ赤になって、ぷしゅーと顔から湯気を出した。可愛くもあるが、赤くなりすぎて気の毒な心持ちもする。第一恥ずかしさで溶けてしまっては事だ。
「毛倡妓」
「はぁい」
リクオの咎めるような口調に、毛倡妓は大人しく肩を竦めた。その口元は緩んでいる。首無は何も見聞きしなかったような素知らぬ顔を作って再び茶を啜った。
「あのっ、私、お茶請けもう少し取ってきます!」
耐えられなくなったように、つららが俄に立ち上がった。赤らめた顔を隠しながら、台所へと走り去る。たぶん戻ってこないだろう。
リクオはのんびりと茶を飲み干してから、そのあとを追った。毛倡妓と首無は、昼の穏やかな目の奥に、夜の紅い光を見たような気がした。絶対に愉しんでいる。毛倡妓があからさまににんまりと微笑んだ。
「…紀乃」
「だって、可愛いじゃない」
些か頭痛を感じながら、首無はチョコレートを口に入れた。柔らかなそれは、案の定ひどく甘かった。
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