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蝶夢

NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。

   

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月光 第二夜 ふたよはゆきに、ゆめに

ぬら孫とxxxHoLic~のクロスワールド、月光第二夜。
子リクつら、ぬら←雪要素あり。
元ネタは某扉絵で雪麗さんが持っていた三味線から。


夜は雪に、夢に






「御免下さい、あの、こちらに御使いで来たんですが!」

 青年が訪れた屋敷は化け物屋敷と呼ぶに相応しく、百鬼が息づいている。とんでもない所に店主は自分を寄越したものだと恨み言を内心でごちる。しかし暫くすると奥から利発そうな少年が現れた。
 その少年はその屋敷で若と持て囃され、次期三代目になろうかという存在である。学校から帰り着替えを済ませたところで、何やら玄関が騒がしくなったのを感じ、特殊な家であるので人間の訪問者でもあったならばと玄関へ向かうと、果たして学生服姿の見知らぬ青年が屋敷の付喪神たちに群れられて右往左往していたのだった。

「あ、若!大変なんです、外に恐ろしい気配が…!」
「それは俺のツレで、何も悪さしないんで放って置いてやってくれませんか。てか俺の上から退け!」

 いつもなら人間の訪問者があった場合、大慌てで隠れる屋敷の妖怪たちが今日はどこかおかしい。やたら青年に構うのだ。付喪神たちに伸し掛かられ、遂に前のめりに倒れた青年が叫んだ。少年は大人ぶった溜め息を吐く。

「お客さんだよ、じいちゃんから聞いてる。…今じいちゃんは出掛けてるんだ、奥へどうぞ」

 そう言うと奥へと誘った。しかしその目は油断なく青年を観察していた。この屋敷に人間がやって来るのはそうあることでない。しかも祖父の客人となれば尚更だ。人の姿をしていようとその本性は人ならざるものであることなど、少年にとって当たり前の事だった。

「大きなお家だね。…アヤカシがいっぱいで」

ゆっくりと少年に付いていく青年は人当たりの良さそうな顔で話しかけた。少年はぴくりと肩を震わせる。その顔は不機嫌そうだった。

「驚かないの?」
「え?どうして?」
「…ボクは、あのおじいちゃんの孫なんだよ。あなたは人間?」

少年には判別がつかなかった。その問いかけに一瞬表情を固め、すぐに困ったような笑みを浮かべた。

「さぁ…俺にもわからない。でも、人間だよ。…たぶんね」
「わからない?…でも、ボクんち入っても驚いてないじゃないか」

やや咎めるような口調になりながら青年を鋭く見据える。それはただの子どもの眼ではない。青年は少したじろいだ後宥めるように微笑し、そっと左目を片手で遮った。鬱金を孕んだ瞳が少年を見下ろした。

「あぁ…。君は、普通の人間と違うんだね。でも人間だ」

遮っていた左手を下ろす。青年の瞳は左右で異なる色をしていた。青年が何を目にしたのか、少年は恐ろしかった。

「…そうだよ。ボクはぬらりひょんの孫だ。どうしてわかるの?」
「さぁ、どうしてかな…。生まれつきそうなんだ。あ、この右目は後天的なものだけどね。…血、かな」

当然のように妖怪に囲まれ生きてきた少年にとって、青年のような人間は初めてだった。きっとこの青年は、自分に近しい存在に違いない。ヒトか妖怪か、どちらにも明確な位置付けをすることができない存在、故に古参の貸し元から侮られ、しかし人からは蔑まされる妖怪の血。一方が他方を否定し、他方が一方を否定する。自己矛盾から脱却するには、どちらか一方を捨てねばならなかった。そうして、人の世界を選んだ。この青年もそうなのだろうか?同じ苦しみを知りうる存在なんだろうか?少年は自分に言い聞かせるよう、いつも口にしている言葉を静かに紡いだ。

「ボクは、立派な人間になるんだ」
「それが君の願い?」

腰を落として、少年の目線に視線を合わせる。少年は動揺した。そんな風に考えたことがなかった。

「もしそれが君にとって本当の願いなら、不可能じゃない。妖怪の血を、力を、なくすことができる」
「…ほんとうに?」
「本当だよ。…但し、対価が必要だけどね」

少年は、黙りこくって考えていた。そんな少年を余所に、腰を上げた青年は庭先へ視線を移した。

「通りで寒いと思ったら…雪、」

はらはらと舞う雪は徒に地面を濡らすだけで、恐らく積もらない。しかしまだ開花には遠い桜の木が、うっすらと雪化粧している。

「そうか…夢で見たのは此処だったんだ。じゃあ、あれは…」

訝しげな少年の視線など微塵も頓着せず、ぼそぼそと思考に耽っている。

「…雪女」
「え?」

青年の口から耳慣れた単語が出てきて、思わず聞き返す。青年の目は此処でない、何処か違う世界を見ているようで、何を映しているのかわからない。再度尋ねようとしたところへ、白い着物に身を包んだ娘が湯呑み二つを盆に乗せて運んで来た。その目は螺旋を描く鮮やかな黄金色で、人たる存在でないのを明示している。可憐な容姿は白い寒椿を思わせた。

「あれ、若、どうしたんですか?部屋の真ん前で…。お茶をお持ちしましたよ、中へどうぞ」

促され障子に手をかけた。ちらりと青年を窺うと、じっと娘を見つめている。その様子に少年はちくりとささくれだったものを覚えたが、それが何なのか理解するにはまだ幼すぎた。
娘は鍋つかみをはめて、如何にも一生懸命な顔つきで注意深く湯呑みを青年と少年の前に置く。その間も青年の視線は娘に注がれていた。ぼんやり見惚れていると言うにはあまりにも熱っぽさに欠け、水面のように静かな眼差しだったが、少年の平静を削ぐには充分だった。近頃は自ら遠ざけてめっきり口を聞かなくなったが、それでも娘は最も親しい守役であり、かつては一番お気に入りの遊び相手でもあった。
娘の方はと言うと青年の視線に不思議そうではあるが、別段気に障るでもないらしく、にこりと微笑んで見せた。青年も釣られて微笑み返し、何とも和やかな雰囲気が漂う。それが少年は面白くない。無意識の内に口を開いた。

「雪女、じぃちゃんは?」
「おぅ、戻ったぞ」

ゆらりと一瞬景色が歪んで、ぬらりひょんが姿を知らしめる。青年は少し驚いたような表情を浮かべただけで、「お邪魔してます」と頭を下げた。相変わらず悪戯好きの祖父にため息を吐き、もう用はなかろうと腰を上げる。娘もそれに倣ったが、老人は呼び止めた。

「あぁ、リクオはそのまま。雪女も退出せんでよい」
「いいんですか?」

娘が意外そうな声を上げた。老人は笑って頷くと、懐から煙管を取り出した。少年は渋々、といった体で再び腰を下ろした。

「それじゃ御使いのモン、わしに渡してくれるかい」

青年が大事そうに抱えてきたそれは白い大風呂敷に包まれていた。しゅるりと結び目を解くと、一丁の三味線が姿を現した。白地の胴に一匹の蝶が舞う。興味深そうに娘が覗きこむ。

「三味線、ですか?」
「この三味線、前は女性が持ち主でしたね」

青年の言葉を老人が肯定する。問いたげな視線を受けて先の言葉を補う。

「夢で、お逢いしました」

そうか、と老人は目を閉じて呟いた。慈しむような手つきで触れる。

「…まぁ形見みたいなモンじゃ」

青年は何も言わなかった。その代わりチラリと娘の方を見た。

「雪女、悪いが弾いてくれんか」
「私が…ですか?」

娘は困惑気味に老人を見つめた。たった今形見だと言ったばかりではなかったのかと言いたげな表情を浮かべたが、老人は引かない。

「確かに弾けますけど、毛倡妓の方が上手ですよ?」
「いや、わしがこの三味線に触れるのを許すのは雪女だけじゃ」

娘は目を瞬かせた。そして膝を躙らせて近づくと、そっと蝶の徴に触れた。予感めいたものが、あった。では、と三味線を抱えると、ビィンと弦を弾いて旋律を見る。老人は煙管をゆったりと啣え、その様子を懐かしむように眺めている。

「対価は、これじゃな」

 少年は娘の三味線を弾くところを見たことがない。興味深く待っていた。
 調律を終えた娘がそっと瞼を伏せ、ふうっと冷たい吐息を吹きかける。金色の瞳が揺らめき、妖しげな雰囲気を纏う。妖気が、やんわりと昂ってゆく。

 ――ベェン、

 低い、旋律が一つ零れた。続いて二つ、三つと前の余韻が途切れる前に落ちてくる。それは降り始めの雪に似ていた。徐々に間隔は短くなり、やがて完全な音楽となる。
 不思議なことに、曲が進むにつれぼんやりと部屋の景色が歪み、目の前に真っ白な光景が現れた。雪山の風景らしく、丸裸の木々は凍り、地も空も白い。はらはらと雪が降り積もる。
そこで一人、長い黒髪の女が舞っている。白い着物を纏った女は、裾から僅かに覗く素肌も雪のように白く黒髪は墨を流したようで、殊更幻想的に思われた。雪女は眼に揺らめく光を宿しどこか儚さを残しながら、優雅に舞い踊っている。
雪はますます深くなる。微かに聞こえる曲調が早くなる。女の舞も早くなる。
艶やかな黒髪が靡き、口元に微かな笑みを浮かべる。この世のものではない、ぞっとするような美しさは畏れさえ感じさせる。容貌ははっきりしないのに、凜とした瞳と色付いた唇だけが脳裏に焼き付いた。
吹雪く中、懸命に目を凝らすも女が段々遠退いてゆく。
女の姿が雪に掻き消えるにつれ、少しずつ三味線の音が大きくなる。

 ――ベェン、

 最後の一音を奏でた時、景色はまた元の部屋の中に戻った。
しん、と空気が治まる。

「御粗末様でした」

 娘が指を揃えて深々と頭を下げた。









「おまっ、このクソ寒い中阿呆みたいに突っ立ってたのかよ!」
「おう」
「いくらお前が阿呆で風邪引かねぇって言ったって限度があるだろ!」
「風邪を引かないのは馬鹿だ、阿呆」
「んだとテメー!」

門の前に出た途端、青年が同じ学生服を着た別の青年と口論を始めた。こちらの青年の方がやや背が高く、髪も短い。瞳の色は鬱金に近く、屋敷に足を踏み入れた青年の右目と同じ色をしていた。

「魔女に宜しく言っとってくれんか。約束の品、確かに受け取った、有難うと」
「あ、はい。お邪魔しました」

青年はぺこりと頭を下げ、ほら行くぞ百目鬼、ともう一人の腕を引っ張った。

「今時珍しい、清々しい気…」

 門の前で待ち惚けを食らっていた方の青年を見て、ぼそりと娘が呟いた。ぽぅっと見つめる、その頬が紅い。少年は俄に不機嫌になって、膨れっ面を隠そうともしないまま娘の名を呼ぶ。

「氷麗、家の中入るよ。寒い」
「あ、…はい!」
「何笑ってんのさ。ヘンなの」
「ふふ、何でもありません!」

実は少年が久方ぶりに真名で呼んだのだが、それに気付いているのは娘の方だけだ。秘かな嬉しさを抑えきれず、自然と笑みが溢れてしまう。
カランと下駄を鳴らして屋敷の中へと踵を返した。その後を嬉しそうな娘が続く。
青年たちは帰路へ着く。その会話が北風に乗って聞こえてきた。

「腹が減った。おでんが食いたい」
「おでんかー。狐のおでん屋さんに逢えればなー。そういや化け猫屋ってのも美味いって侑子さんが」
「お前が作ればいいだろ」
「偉そうに言うな!」
「ビーフシチューも作れ」
「またお前は時間のかかるもんばっか…!」

真っ黒な学生服に身を包んだ影法師のような二人は、はらはらと雪降る冬の道に消えていった。喧嘩するほどなんとやら、じゃな。老人は二人を見送り、くつりと喉の奥で笑う。

「わしらがのぞむ未来は、どうなるかのぅ…なぁ、」

黒髪の美しい女を思い描いて空を見上げた。







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プロフィール

HN:
黒蜜
性別:
女性
自己紹介:
社会人。
亀更新、凝り性で飽き性。
NL偏愛。
葛藤のあるCPだと殊更ハマる。
王道CPに滅法弱い。それしか見えない。

取り扱いCP:リクつら・名柊(夏目)・ネウヤコ(弥子総受け)・通行止め・イチルキ・ギルエリ・鷹冬(俺様)・殺りん・男鹿ヒル・銀妙・ルナミetc
その時々に書きたいものを、書きたいペースで。

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