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蝶夢

NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。

   

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魔法少年

某超有名児童小説とリクつらの日常。
ちょっとアダルトな関係のリクつら

 参考書を買いたい、とリクオ様が仰ったため、学校帰り、それに付き従って小さな書店を訪れた時のことです。
 所狭しと並べられたその本屋に入っても、形だけ学生の私には、一体どのような参考書が良いのやらさっぱりわかりませんから、中の警戒も兼ねて、ぶらぶらと参考書のコーナーから離れ、店内を見回りました。と言って狭い本屋であるので、リクオ様から然程離れてはいません。
 ふと、きっと他のどんな書店にでも置いてあると思われる、かつて世界的にベストセラーとなった、シリーズものの児童書の、横並びに積まれているのが目に入りました。元々は外国のお話で、日本では小さな出版社が翻訳していると聞いています。私は洋書なんて勿論読めませんし、翻訳されたものも読んだことはありませんでしたが、映画化されたものなら、以前リクオ様と一緒に見たことがあります。確かに迫力があって、外国の妖魔とはこのようなものかと思い、楽しく鑑賞したのですけど、それだけではストーリーが今一つよくわかりませんでした。なので、原作も読まれていたリクオ様が、丁寧に設定を説明して下さいました。おかげで私は、本は読んだことありませんが、それなりに詳しくこの物語を知っています。
 露草色の、一番最後の巻を何となく手にして見ますと、ずしりと重く、若はよくもこれほどまでに分厚い本を、それも十冊程もお読みになられたわと感心させられるばかりです。

「つらら、何見てるの? 何か欲しい?」
「リクオ様。参考書は買われました?」
「うん。あ、何見てるかと思えば…家にあるよ、それ」
「えぇ、わかってますよ、リクオ様と映画、見ましたよね」
「そうそう。懐かしいなぁ」

 久しぶりに読み直そうかな、とリクオ様が呟かれるのを耳にし、私はどんなお話だったか記憶を探ります。

「リクオ様って、このお話の主人公に、少し似ておられますよね」

 本屋を出て、二人並んで歩き始めて、私はそう申し上げました。

「眼鏡ってとこが?」
「人ならざる世界と人の世を行き来し、魑魅魍魎の側では崇めたてられていらっしゃるところとか」
「列車には乗らないけどね。しかも、杖じゃなく得物だし」

 くすくすとリクオ様はお笑いになられます。

「敵の大将を倒す責を担ってらっしゃるところも」
「まぁ、ねぇ。それは仕方ないよ。ボクは、総大将だから」
「側近の私に言わせていただくと、本当は、危ない目に遭ってほしくないんですけれど…」
「そりゃ、無理な話だ」

 いつのまにか心配そうな表情になっていたのでしょう、リクオ様は快活に笑って見せられました。そして、私を安心させるように、そっと手を繋いで下さいます。

「ねぇ、つらら。どうしてあの主人公は、敵のボスを倒したんだと思う?」

 リクオ様は微笑を浮かべられたまま、いきなりそうお尋ねになられました。私は少し、首を傾げて、考え考え、意見を口にします。

「さぁ…確か、あの敵の大将は、主人公の肉親を殺した、因縁の相手でしたよね? 親の仇を取るのは子の務めでしょうし…それに、主人公にとっては生まれる前から決まっていた、戦うべき宿敵だったから、じゃないんですか?」
「さぁ、どうだろう」

 リクオ様は、はっきりとお答えになられませんでしたが、私には、違う意見を持っていらっしゃることが、よくわかりました。

「今のボクには、それがわかる気がするんだ」



 その日の晩、久々に出入りがありました。敵の大将は悪行の限りを尽くし、奴良組の傘下の中にも、血縁を手にかけられ、激しい憎しみを抱いていた者がいるような妖怪でした。それでもリクオ様に敵うはずもなく、切られたその妖怪は、塵となって消滅しました。
 その後はいつもの静かな夜でした。リクオ様に侍ってお酌をしていますと、リクオ様が昼間の話を始められました。

「で、わかったかい」

 そう言ってくつりと笑うのです。私は昼間お答えした内容と、考えが変わりませんでしたので、情けないことですが、わかりませんと言いました。

「じゃあ、話を変えるとするか。今夜の出入り、どう思う? オレは敵の大将を殺めたわけだが、生かして奴良組の傘下に加えた方がよかったか」

 これは難しいお話です。一介の側近が申し上げるようなことではありません。その旨を申したところ、リクオ様はお笑いになって、

「お前はもう一介の側近なんかじゃねぇだろう。此処にはオレとお前、二人しか居ないだろうが。そんなことに拘らず、良いから一寸答えてみな」

と仰います。

「…私は、リクオ様の判断は、正しかったと思います。あの妖怪は、奴良組のシマを荒らしただけでなく、他の処でも罪のない妖怪や人間を、自らの愉しみのためだけに殺していました。残虐な遣り方でした。そんな輩を奴良組に入れるのはどうかと思いますし、改心出来るようにも見えません。決して赦すことは出来なかった、と思います」

 ふふん、とリクオ様はひどく楽しげなご様子です。

「なら、致し方ない、末路だったと。お前はそう思うかい?」
「そう、思います」
「切られても仕方ないと、殺されて当然だと思うかい」
「…時には、そのような者もおりましょう。そうでなければ、組に締まりがつきません」

 何故このようなことをお聞きになるのか、私にはとんと検討がつきませんでした。リクオ様は、まだ成人にも満たない十二の頃から組を率い、総大将の座をお継ぎになられた方です。然すれば、これら質問は今更というものでしょう。

「だがしかし、彼奴にだってああも非道になってしまう、やむにやまれぬ事情があったんだろうよ。それが何かはオレは知らねぇが。けれど、何の理由もなく、という訳ではないことはわかるさ」

 嗚呼、私は、何と酷い女だろうかと、リクオ様にそう思われたのではないかと恥じ入りました。非道な輩と、打つのが当たり前と思っている、思い込んでいる時の此方の方が、きっと残虐非道なのでしょう。

「怪物と闘うものは、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ、ってな。…親父が言った、闇から逃げろというのは、闇に囚われるな、つまり、こういうことじゃねぇのかと、オレは思うんだ」
「…リクオ様は、慈悲深くていらっしゃいますね。私は、…酷いことを申しました」
「いいや。今のは単なる綺麗事だ。それだけじゃ百鬼は纏められねぇ」
「でも、此方の締まりがつかないから、というのも、些か手前勝手な理由の気もします」

 言ってから、出すぎたことを、これでは百鬼夜行を否定しているようなものではと気づき、慌てて謝ろうとした私の頬を、リクオ様がすっと撫でられます。ちらりとご様子を窺うと、とてもお優しい表情をされていました。

「そうだな。オレも、そうも思う。じゃ、やっぱり生かしておくべきだったか」
「…それは…できません」
「そいつァ、どうしてだ?」

 私は、この方を負ぶえるような幼少期から、ずっとお仕えしているのに、あまり表に出さないリクオ様のこと、もしかしたら何もわかってなかったのかも知れません。

「あの妖怪は、恨みを買いすぎました。いつかの玉章のように、赦したところで弔いなど、絶対にしなかったでしょう。だからといって組に入れ監視下に置けば、きっと多数の内部の反感を招きます。そうなれば…」
「…今度危ねぇのは、オレだな」

 そう言って笑われるリクオ様には、まるで困った様子がないのです。私が、私たちが、要らぬ荷を背負わせたのかも知れないというのに。やれ三代目だ御世継ぎだと、持て囃しお育てした一方で、上に立つことの苦しみを、何ら考慮していなかった。それが情けなく、悔やまれるのです。

「誰かを裁くっつうのは難しい。どこまで罰せば良いのか、オレにその資格があるのか、わかりゃしねぇ。だがな、つらら。事情があるだろうとは思っていても、手ェ下すのは、オレじゃなきゃいけねぇ。オレが始末つけなきゃいけねぇんだよ」

 ぷかりと煙管を吹かせるお姿は、何ともお頼もしく、そして美しく私の目に映ります。

「オレがやらなきゃあ、配下の他の野郎がやっちまっただろうさ。私怨にかられた野郎が、な。それはさせちゃなんねぇ。そりゃ、怪物のすることだ」
「そういう者たちの、代わりにやっている、と?」
「当たらずとも遠からず、だな。オレは百鬼を背負っている。背負った連中の怒りや哀しみもまた、な。そういう私怨から、百鬼を守るのが、率いるもんの務めって奴だぜ」

 リクオ様はお強い方です。けれど、とてもお寂しい立場にあられる方です。私はリクオ様の手の甲に、自分のものを重ねました。リクオ様はちょっと意外そうに目を向けて、やんわりと苦笑し、私を引き寄せます。

「あの物語の主人公は、決してあの敵の総大将に対し、私怨を以て手をかけた訳じゃねぇだろう。もっと大きなモンのためだ」

 私は少し、考えて、そして答えを見つけました。

「道理、ですね」
「ああ、オレはそう思っている」

 盆に置いた煙管からは、ゆらゆらと一本の白煙が長く立ち上ぼり、闇の中で朧気にその行く先を示します。それは見ようによっては、百鬼夜行にも似ているようでした。

「罪を憎んで人を憎まず。つらら、お前は、オレが今晩の出入りをどう思うか聞いた時、感情論でなく道理から、その根拠を説いてみせた。それこそ、お前がオレの側近に相応しい証だ」

 するりと髪を指先で撫でられて、私は全身の力を抜き、頭をリクオ様の肩に預けます。
 穏やかな、良い心地に浸っていると、私は不意に思い出したことがありました。

「…あぁ、そうでした、もう1つ見つけたんです。あの主人公と、リクオ様の共通点」
「ほー、で? 何だった?」

 くすっと笑って悪戯っぽく、そして皮肉混じりにお答えします。

「普段は優等生で通っていらっしゃいますが、夜になると寝床を抜け出し、びっくりするような校則破りをなさってるところです」
「そりゃ、お前、」

 にやりと口角を上げられたので、俄に危機感を覚えたのですが、逃げようにも私の身体は、既にリクオ様の腕の中。

「襲ってくれって言ってるようなもんだぜ」

 (ああ、なんでそうなるんですか、わたしってばかかしら!)


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プロフィール

HN:
黒蜜
性別:
女性
自己紹介:
社会人。
亀更新、凝り性で飽き性。
NL偏愛。
葛藤のあるCPだと殊更ハマる。
王道CPに滅法弱い。それしか見えない。

取り扱いCP:リクつら・名柊(夏目)・ネウヤコ(弥子総受け)・通行止め・イチルキ・ギルエリ・鷹冬(俺様)・殺りん・男鹿ヒル・銀妙・ルナミetc
その時々に書きたいものを、書きたいペースで。

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