蝶夢
NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。
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母の日って強要されがちだけど父の日はそーでもない
更新が最近だからと言って、必ずしも最近書いたものとは限らないのが当サイトであります。←
これもその一つ。
母の日のお妙さんと万事屋。
これもその一つ。
母の日のお妙さんと万事屋。
――世界で、一番の理想の女性は、姉上だと思っています。
と、言うや否や、矢継ぎ早に悪言雑言が新八を襲った。
「キモいアル」
「んなこと言ってっからモテねーんだよこのシスコン、目だけじゃなく頭もダメだな」
「気持ち悪いアル」
「神楽ちゃんリアルな感じで言うのやめてくれる? 特に2回目」
新八はコホンと咳払いしてめげずに続けた。彼の姉への愛は海より深く、尊敬の念は山より高いのだ。
「まぁ、それはちょっと言い過ぎかもしれないですけど。姉上だって欠点はありますし」
「むしろ決定的かつ致命的な欠点しか見当たらねーよお前のねーちゃんゴリラに育てられたの?」
「ダメガネの分際で偉そうアル。姐御は新八には勿体ない姉アルよ。お前は欠点しかねーヨ、存在意義はメガネだけネ。定春銀ちゃんに噛みつくヨロシ」
「ちょっとォォオ! さっき人のことキモい呼ばわりしといて何なの!?」
「うるさい。お前が言うとキモいアル」
新八はぐっと堪えた。このままでは一向に本題に入らない。幸い銀時は血肉の塊と化したため、切り出すにはいいタイミングだ。
「母の日だけど、姉上にプレゼントしようと思うんです。姉上が育ててくれたようなものだし」
「母の日?」
「本当はお母さんに日頃の感謝をしようって日だよ」
「いいアル! 姐御の日ネ!」
やるアルやるアル! と神楽がはしゃぐ。
「銀ちゃんも姐御に姐御の日するアル!」
漸く回復した銀時は、露骨に嫌そうな顔をした。
「お前らバカじゃねーの? 大体あいつは俺のねーちゃんでもかーちゃんでもありませェん。あいつもその歳で母親扱いされちゃいい迷惑なんじゃね?」
耳を掻きながら、死んだ魚のような目が語る。
「それにあいつに母の日するんなら、俺にも父の日に何かしろよ。日頃の感謝をするんだろ」
「ならまずは給料払えやダメ天パ」
「マダオの日なんてないネ。百歩譲って敬老の日アル」
「これ白髪じゃないからァァ!!」
神楽から資金をせびられ、また血を見ること多少、新八と神楽は二人で出掛けていった。糖分がいい、という銀時の主張は素気無く却下された。
銀時は一人気だるげにジャンプを捲っていたが、暫くして腰を上げた。家を出てスクーターを走らせる。二人が妙に何を贈るか興味があったし、何しろ彼女の好物は某高級アイスだ。もしかしたら二人からプレゼントを貰った妙が、気をよくして糖分を振る舞うかもしれない。ダークマターが饗される可能性は脳内で消去した。虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。
「それでうちに?」
妙が玄米茶を淹れつつ、可笑しそうに言った。ふんわりと芳ばしい匂いが薫る。最終兵器卵もなければ、ストーカーというゴリラもいなかった。珍しくちゃんと仕事に勤しんでいるのかもしれない。
「そういうのって、サプライズされる方に言っちゃいけないんじゃないですか」
「まぁいーだろ、べつに。お前は貰えるんだから。俺にも父の日ならぬ銀さんの日を設けるべきだろーが」
「の、前に働け給料払えやマダオ。…そもそもお父さん、なんて歳じゃないでしょう?」
「それはお前もだろ」
「おじいちゃん、ならわかるけど」
「だからこれ生まれつきィィイ!!!」
どこかで聞いたようなやり取りだ。
妙はふふりと笑う。まだ十八なのになぁ、と銀時は考えた。早く大人にならないといけない立場だったからだろうが、ずっとこうではしんどくないのか。それとも生まれついての母性がそうさせているのか。
「まだ来てないですよ、あの二人は。ごめんなさい、お花を生けてる途中だったの。少し外しますね」
どーぞおかまいなく、かったるく銀時が首を鳴らす。湯飲みは程好い温かさを掌に伝えている。淡い色とほんのりとした甘味が心を落ち着かせる。パチン、パチン、隣の部屋から鋏の音が流れてくる。
こっそりと隣の様子を窺う。母の日らしく、薄桃のカーネーションを用いるらしい。妙は銀時の視線にまるで気づく様子もなく、静かに花を生けている。背筋をぴんと伸ばした頭の上で揺れる、ひとくくりにした髪が艶めいて見えた。少し伏せた睫毛に、凛とした美しさを感じる。細い指先がカーネーションを愛でる様は絵になるな、本人には絶対死んでも言わないが。元々こいつは美人なんだ、いつも色々、壊滅的破壊力の前に霞んでしまうけど、と誰かに言うともなく言い訳めいたことを思う。
――世界で、一番の理想の女性は、姉上だと思っています。
不意に、新八の言葉が頭の中に響いた。
理想の女、ねぇ。銀時は妙をじっと眺める。
新八の場合、妙と二人の時間が長かったために、シスコンはシスコンでもマザコンに似たものがあるのではないかと常々考えていた。だから理想の女性、などという言葉が出てくるのだろう。
確かに、淹れる茶は美味いし、武道を心得ている他、一般的なお稽古事は出来るようで、絵も上手い。胸はないが、黙っていれば清楚系美人だ。あくまで黙っていれば。しかし黙っていられないのがこの女で、とんでもない下ネタを平気で口にすることもあるし、如何せんあの怪力はいただけない。失明や失神の危険性を孕んだかわいそうな卵も忘れてはならない特筆事項だ。
短気で狂暴で、面倒見と変なところで聞き分けが良くて、その癖自分が誰かに頼ることをなかなか良しとしない。十八にしては達観し過ぎているところがある、どうにも面倒臭い女だと銀時は思う。絶対に理想の女ではない。
「…理想と実際の惚れた腫れたは、別モンだな」
何か言いました? という妙の声に、いいやと生返事して銀時は畳に寝転んだ。
ガラリと玄関の開く音がした。どうやら二人が来たらしい。賑やかな声が呼んでいる。
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