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蝶夢

NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。

   

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月やあらぬ 五

つらら視点。
竜二さん登場

 最初は嫌いだった。嫌い、というよりこわかった。陰陽師であること、冷酷無比な性格であることを聞いて知っていたから。何より夜のリクオ様とはまた違う、人を圧倒させる何かを持っているように思えたから。
――なのに、どうして私は今、奴と一緒にアイス食べてるのかしら。
 プラスチックの小さなスプーンを銜えて軽く噛む。横目でちらりと様子を窺う。決して彼の食べるマンゴー味が羨ましいからではない。私の食べているトロピカルクリームチーズだってなかなかのものだ。絶対にあっちにしても良かったなとか思ってない。

「なんだ物欲しそうに人のアイス狙いやがって」
「ねらっ…そんなこと! ただちょっとどんな味なのかなーいえマンゴーの味なんでしょうけどきっと濃厚で美味しいんだろうなー、とか考えたりしてただけですっ!」

全く失礼な。私はアイスを窺ってたのではなく、このかつては敵対していたこともあるこの男を警戒していただけで、彼のアイスを見てたりなんか。

「そうか? さっきからちらちら見てっから、てっきり。うまいなマンゴー。さすが高級アイスなだけあるな」

まぁマンゴー味って外れなくうまいからななどと言う。くっ・・・その手には乗らないわよ! 痩せても枯れてもこの及川氷麗、母娘2代にわたり奴良組総大将の側近を務める雪女ですもの! しかも、まぁなんて嫌な殿方なんでしょうわざとらしい! すかした顔で言うのがますます腹立たしい。陰陽師娘が嫌うのも納得だわ! なんて私の内心の荒ぶりを知ってか知らずか、彼は依然としてマンゴーをいかにも美味しそうに食す。いいわよ、私にはトロピカルクリームチーズがついてますから! そう思ってトロピカルクリームチーズに集中しようとしたところで、隣からさっとスプーンが伸びてきた。

「…ちょっと! 何するんですかぁっ!?」
「あー、これはこれでうまいな」

あっさりと攫っていかれた、私のトロピカルクリームチーズ。ふん、と訳知り顔で笑われた。やっぱりわざとだったのよ!

「ふ、ふん。人に偉そうなこと言いながら、自分だって物欲しそうに狙ってたんじゃないですか」
「『自分だって』ってことはやっぱり狙ってたのか」
「ちっ、違いますー! っていうか自分だけずるいわよ! とりゃぁっ」

瞬時に構えたスプーンは目にも止まらぬ早さでマンゴーアイスに突き刺さる! なんて素早い動き! そのまま適確な角度で引き抜けば、見よ、見事マンゴーを奪い取った! 見て下さいリクオ様! つららはやりました! ささ、いただきまーす! 喜んで口の中へマンゴーを放れば、想像以上の濃厚な甘味。ああ幸せ。

「…ガキか」
「なんですってぇ!?」

どうしてこの人いちいち一言多いのかしら。ジト目で見遣って、それから気を取り直し自分のトロピカルクリームチーズに戻る。と、はたりと気がついた。これって、これって、間接きっ・・・す、ではないわね・・・。けど、なんかこう、いいんでしょうか。彼が攫っていった部分がやけに存在を主張している、気がする。

「ごっそーさん」

私が戸惑っている間に彼は食べ終わっていた。私のこの繊細な乙女心を分けてやりたいくらいです。

「さっさと食え。溶け…はしないんだったな」

ふふん、と得意げに笑って見せれば呆れたように「人型冷蔵庫」と言われる。やっぱり失礼よこの人!

 今日彼とアイスを食べることになったのは、決して前々から約束していたからではなくて、偶々出会したからだ。多少気落ちするようなことが続いて、極めつけに苛々するような出来事にぶつかってしまったものだから私の心はぽっきり折れた。そこへ彼が絶妙のタイミングで現れた。はっ、今思えば腹黒~いこの男のこと、ちょっと前から通りかかって様子を見ていたのかも知れない。いずれにせよ、彼の登場のおかげで騒ぎは免れ、むっつり不機嫌だった私に何の狙いがあってかアイスを奢ってくれた。しかも某有名高級アイスだ。一体なぜ、と思わなくもなかったけど、それでちょっぴり私の機嫌は回復した。アイスはいつ誰と食べても素晴らしい。
 最近どういうわけか特によく彼に出会う。私がリクオ様と顔を合わせないよう以前よりも出掛けることが増えたからかもしれない。可笑しなものだと思う。側近失格だとも思う。お側にいると、誓ったのに。未来永劫、何があろうとも。リクオ様が家長を選ぶだろうということは、本当にもうずっと前から予想していたことだった。だからそれが現実のものとなっても、私はただ静かに、変わらずリクオ様をお守りし続けるつもりだった。リクオ様の方が私から離れていってしまうことも、覚悟していた。それなのに現実は逆の方向へと向かった。リクオ様は少々私に対して過保護だ。勿論、とても有り難いことなのは自覚している。けれど家長のことを考えると気後れした。それに私、そんなに信用ないかしら。私が弱いのが原因でしょうか。そう思い悩んで、半年と少し。リクオ様と家長は別れた。リクオ様と家長が付き合っていたのは、一年弱。 巻さんたちからそのことを知った私は、家長を探した。探して、走って、そして見つけた。階段の踊り場からただ一言、家長、と呼んだ。いつかの文化祭の時みたいだった。あの時は私が呼び止められる側で、相手を見上げていた。今は私が呼び止める側だ。家長はゆっくりと振り向いて、私を見上げた。それからくしゃりと笑った。私はもうそれだけで、わかってしまった。何か告げるより早く、家長は小走りで行ってしまった。 無性に腹が立ったし、悲しかったし、その上ほんの少し、心のどこかで嬉しかった。それは冷めた嬉しさだった。ごちゃごちゃした感情をぶら下げたまま、リクオ様にぶつけてしまった。家長に自分の、報われることなく凍らせた感情を重ねてしまっていたのだと、後から気づいた。

『何でお前が怒ってんだ?』

リクオ様のその一言に突き放された気がした。家長に感情を重ねることから、リクオ様自身から、突き放されたように思えた。毛倡妓が助け船を出してくれなかったら、私は泣いてしまっていたかもしれない。それがどうしようもなく悔しい。リクオ様に顔を合わせづらい。顔を合わせれば合わせたで、つい言葉尻を悪くとって皮肉げな口調になってしまう。その内側近頭も外されちゃわないかしら。不安を一蹴するように毛倡妓以下女衆は「断固戦うべし」と言っている。何だか組も巻き込んで大事になってしまった。

「…食わねぇなら遠慮なくもらうが」
「はぅ! 食べる! 食べるわよ!」

そんな状態だから、全く無関係のこの男と一緒にいるのが心地いいと思っているらしかった。最初は怖くて近寄りがたかったけれど、今は決して悪い人間ではないとわかったから、前より印象が良くなった。何だかんだで頼りになるし、努力家らしいし、真面目だし。それに、何と言うか、大人だ。人間の子のくせに。いえ、実際もう成人してるけど、それでも。私から見ればただの人の子、二十年と少ししか生きてない。だけどリクオ様の同級生たちより随分大人びている。この頃の人の年齢差とは実に大きいけれど、彼を大人びてると感じるのはきっとそれだけじゃない。
 リクオ様をお側でお守りして、十七年。たったの、十七年。人間から見ると永にも等しい時を生きる魑魅魍魎にとって、瞬きに過ぎぬ時間。それなのに今まで生きた中で最も色濃く鮮烈で、いとおしい時間だった。リクオ様が覚えてなくても、いつか、忘れてしまっても。私はその記憶を胸にこれからも生きていけるのだ。そう思える人に出逢えたことは、私にとって途方もない幸せだと思う。

「今日の夕飯は麻婆豆腐か」

がさりとスーパーの袋を揺らして、彼は中を確認した。

「そうだけど」

この人料理出来なさそう。陰陽師娘もどっちかっていうと、そういうタイプにみえるし(この兄妹はそういうところが似てそうよね)。

「…暇なら、ちょっと待っててくれればお重に分けてあげるけど」

不本意だけど。借りもあるし。親切で言ったのに、露骨に顔をしかめられた。

「凍ってんじゃねぇだろうな」
「凍ってないっ…こともない…けど、大丈夫よ失礼ね! リクオ様はいつも『凍ってるけど美味しい』って言ってくださるわ!」
「やっぱり凍ってんじゃねぇか」

う、と言葉に詰まる。言わなきゃ良かったわ。それに最近はリクオ様ともあまり口をきいてないから、誉めてくださったのももう前の話だ。それを思い出してまたしょんぼり落ち込んだ。何かにつけてリクオ様のことに関連させては毎回落ち込む。

「…けど、そういやゆらも美味いっつってたな」

ぼそりと溢れた言葉に、ああ、と懐かしい日々を思い起こす。がむしゃらに駆け抜けた、あの頃。必死に藻掻いて足掻いて、死を覚悟したし、希望も持った。確かに、私たちの間には揺るがないものがあるのだと知った。今思えば、哀しくて、残酷で、尊いものを目の当たりにした。そういうものを私たちは共有している。

「まぁ、見てなさい」

絶対美味しいって言わせてやるんだから、そう息巻いて腰を上げる。男は肩を竦めたけれど、大人しく私の後に続いた。


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プロフィール

HN:
黒蜜
性別:
女性
自己紹介:
社会人。
亀更新、凝り性で飽き性。
NL偏愛。
葛藤のあるCPだと殊更ハマる。
王道CPに滅法弱い。それしか見えない。

取り扱いCP:リクつら・名柊(夏目)・ネウヤコ(弥子総受け)・通行止め・イチルキ・ギルエリ・鷹冬(俺様)・殺りん・男鹿ヒル・銀妙・ルナミetc
その時々に書きたいものを、書きたいペースで。

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