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蝶夢

NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。

   

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月やあらぬ 三

カナちゃん視点
かなり…扱いが悪い、です…(^q^)

 たとえば、学校からの帰り道。ちょっと遠回りして、いつもとは違う道も通ってみたりして、他の子よりもたくさん喋れる時間。たとえば、朝目が覚めた時。隣で、すうすう眠ってる姿。たとえば、繋いだ手。たとえば、抱きかかえてくれる腕。そういうの、私の特権だと思ってた。
「リクオくんって、私のこと本当に好きなの」
 だけどそれだけ。それだけだった。彼は私に、何も話してくれない。しんどいとか疲れたとか苦しいとか。何があったか、とか。今まであったこと、彼が隠してきたこと。知った今でも、本当に辛いことは話してくれない。それは生来の彼の優しさでもあったし、私が怖がりなせいもあった。だけど、だけどね、やっぱり話してほしいって思うこともあるんだよ。私だって、甘やかしてあげたいって思うこともあるんだよ。
 でも、そういうのは全部、及川さんの役目だったんだ。
「…どうしたの、カナちゃん」
 彼は私の言葉にたじろいだようだった。珍しい。こんなリクオくん、なかなか見れるものじゃない。私はそっと自分の白いシフォンワンピースの裾を掴んだ。アウターはベージュのトレンチコート、足下はレースソックスに茶色のブーティー、肩には赤いポシェット。毎回、二人で会う前の日は、明日何着てこうか迷う。だって、やっぱり可愛いって思ってほしいから。可愛く見せたいから。私がリクオくんの彼女、なんだから。だけどこうした私の努力は、ちゃんと彼の目に映っているのかな。
「…別に」
 なんでもないって言おうとして、言えなかった。不自然に途切れた私の言葉を彼は不思議そうに待っている。それが、余計ささくれだった気分にさせる。どうして? 本当に好きなのって聞いて、何ですぐ頷いてくれないの。私たち、付き合ってるんだよね?
「…なんか僕、しちゃった?」
「ちがうよ! そうじゃなくて、」
 ずっとぼうっとしてるのに、私が気づいてないとでも思った? 時々眉間に皺寄せて難しい顔してるの、誤魔化せてるとでも思った?
 そういうことは今までに何回もあった。そのたびに彼は、何でもない、心配ないよ、悪ぃな、ごめんねって言って、私はそれ以上踏み込めなかった。何を考えてるのかいつもわからなかった。ぬらり、くらり、いつだって。
けれど。買い物してる間、彼がじっと見てた、雪の結晶の形をしたアクセサリー。一緒に入ったアイスクリーム屋さん。そこでひっそりと私は、しっかりと知らしめられる。それがわからないほど、バカじゃない。
 付き合ってからも、二人だけで帰ることは多くなかった。大抵は、及川さんも一緒。及川さんが邪魔してくっついてくるっていうんじゃなくて、彼がそれを望んだからだ。むしろ及川さんの方が遠慮して、「たまには家長と二人で帰ってはどうですか」なんて気を遣うくらい。及川さんがお家の買い物を頼まれてる日は「荷物一人で持って帰るの?」ってついて行くし、前に一度及川さんが一人でいる時に怪我をしたことがあったらしくて「お前は危なっかしいから」となるべく付き添うようにしてる。
 いつも、思う。彼と及川さんが一緒にいるとき、私が入り込む余地なんてないんじゃないかって。
 だから明確な言葉がほしい。もしくはもっと行動で示して。好きって言って。一番可愛いって言って。私は毎日二人だけの時間がほしいよ。毎週日曜会いたいよ。
「…ほんとは、ずっと思ってたんだよ」
「何を?」
「リクオくん、私のこと好きなのかなって」
 ちら、と彼の表情を探った。彼は困ったように、私が何を求めてるのか窺い知ろうとしていた。
「…好きじゃなかったら、付き合ったりしないよ」
「そう、かな」
 彼の遠回しな返事を、私も遠回しに否定した。きっともう答えは出てた。ずっと前から答えは出てた。気づかないようにしてきた。気づいてないふりをしてきた。彼はまだ気づいてない。
 いつの間にか私の中にあったもの。いつの間にか変わってしまっていたもの。

 私、及川さんに、かちたい。

 ぽとりと、露わになった呟きは、願望というには卑しくて、欲求というには切実すぎた。あの日、あの、雪の日。蜜柑色の光を受けて、目の前に座った彼女の瞳が揺らめいた。
「それは、無理ね」
 彼女は、冷酷だった。冷酷なまでに、公正だった。
「それは無理よ。あの子はあの子。リクオ様の中にいるあの子は、リクオ様のものよ。あなたにはどうしようもない。あの子とリクオ様の関係は、あの二人だけのもの」
 ちいさく、息をした。わかっていたはずだった。認めたくない事実だった。
「あなたは、あの子とリクオ様とは違う関係を、あなたと彼の間で育んでいくしかないの」
 心細かった。真っ暗な中に放り出されたみたいだった。きゅ、とミルクティーの入ったマグカップを握りしめた。
 彼女はそう言って少し躊躇い、何か言おうとした言葉を飲み込んだらしかった。それ以上、彼女は何も言わなかった。私も、何も聞かなかった。
「私には、そうは思えない」
「カナ、ちゃん」
「リクオくんの好きは、私の思ってるものと、たぶん違う。私が望んでるものと、違うの」
息を、吸った。呼吸するのが、ひどく難しかった。
「…別れよっか」
 彼は、いつも、いつでも、及川さんを見ていた。及川さんを、大事にしていた。それを、本当は彼自身が一番知らなきゃいけないのに、彼はまだ気づいてないんだ。それは、ただの残酷でしかない。

 彼のことが好きだった。今この瞬間も痛いくらい、好きだ、と心が叫んでる。私の中で変わらないもの。変えようとして、変えれなかったもの。これ以上は、もう、一緒にいられなかった。私には、無理だった。好きっていう気持ちより、痛みの方がまさった。

 彼は呆然としていた。何も、言わなかった。なんにも。しょうがないよね、くしゃりと笑った。だって、リクオくんの中には、いつだって及川さんがいるんだもん。だけど私はそれを教えてあげたりしない。絶対に指摘してあげたりなんかしない。今はまだ、私はリクオくんの幼なじみなんかじゃないから。
 じゃあね、と言った声が、みっともなく震えた。



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プロフィール

HN:
黒蜜
性別:
女性
自己紹介:
社会人。
亀更新、凝り性で飽き性。
NL偏愛。
葛藤のあるCPだと殊更ハマる。
王道CPに滅法弱い。それしか見えない。

取り扱いCP:リクつら・名柊(夏目)・ネウヤコ(弥子総受け)・通行止め・イチルキ・ギルエリ・鷹冬(俺様)・殺りん・男鹿ヒル・銀妙・ルナミetc
その時々に書きたいものを、書きたいペースで。

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