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蝶夢

NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。

   

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なくもんか

タイトルは同名のいきものがかりの曲から拝借。
お妙さんの涙について考える銀さん

 ザァァァとどしゃぶりの雨が降りだした。握った手首から、熱。振り払おうとするような仕草に一層力を込めてやる。有無を言わさず、歩き出した。

 女の涙というものに、深い意味はない。

 それを知ったのは遥か昔のことだ。どういうわけか俺は昔から女運がなかった(のは、天パのせいだと固く信じている)。その経験からわかったのは、女の涙ほど当てにならないものはない、ということだった。単なる塩っ辛い水分だ。奴らは分が悪くなったらめそめそ、そのくせ裏でぺろっと舌を出しやがる。やれ俺が泣かしただの、やれサイテーだの、卑怯極まりねーな。そうやって周囲の関心や同情を買ってるんだ。色恋沙汰なんざ特にそうだろ。泣きゃあなんでも言うこと聞くと思ってるに違いない。
支払いの際に泣き出して、賃金を渋る奴もいた。そういうのは遠慮なくふんだくった。女の涙は当てにならない。飾りじゃないのよ涙は、とかいう歌が流行ったのも昔のことだ。鏡見てみろ、女の泣き顔をキレイだなんざ、思ったことは一度もねェわ。化粧も落ちて、汚ェとさえ思っていた。
 それが、どういう訳か、一人だけ違う女がいた。
「離してください、銀さん」
普段は、それはそれは綺麗で完璧な笑みを浮かべて見せる女だった。その本性がゴリラとはいえ、大人びた笑みは人を惹き付けるものがあった。けれど年相応に、はしゃぐような笑みを浮かべることがあるのも知っていた。辛いときでも、笑う女だと。
「離して、」
人前で泣くような女でないことも気がついていた。そういうことを無性に嫌う女だ。弱さを見せるのを厭う女だ。そして人の苦しみまでも、背負おうとする女だ。
「お前さぁ」
だからこそ、こいつが泣く姿は苦手だった。傍若無人な振る舞いも多いが、根っ子では人のために自分を殺すことが得意な女だ。それが、ギリギリのところになって、漸く涙するわけだ。ほっておけるはずがない。
といって泣き方が綺麗かというと、そうでもなかった。鼻水だって垂らしてる。本気で泣いてんだから当然だ。ガキみてぇに泣きやがる。けど、本当にガキの神楽が泣いてんのとは、また違った感情だった。保護者として、庇護者として何とかしてやろうと思うのとは、全然別の感情だった。たぶんこいつが女で、俺が男だからだ。こいつのは、女の涙だ。不思議と、汚いとは全く思わなかった。擦って赤くなった目尻を見ると、痛々しいとさえ思えた。こいつを泣かせやがったのはどいつだと、解決が困難だったとしても何とかしてやりてェと、思っちまう。卑怯だな、卑怯で泣いてねぇんだから、卑怯だ。
 お妙が泣く時、泣かせてる対象はそれに気づいてないことが多い。こいつが泣くのは、いい。こいつが泣いてんのを知らねぇのは、許せなかった。
 こいつは泣く時、よく謝る。お前なァ、普段謝るべき時がいっぱいあんだろ。何でそこで謝んだよ。そんな背負いこんで、お前の方が潰れちまいそうだ。
 女の涙に深い意味はないと思っていた。ぽたりと落ちる涙の熱は、新たに知ったことだ。華奢な背が背伸びして、色んなものを背負おうとしているのも、それを気取られまいと平然と笑うのも。いつの間にか知っていた。だからこいつは、いつだって綺麗な女だ。
「我慢してんだろ」
ぼろ、と溢れた水滴は手首を掴んでいた俺の手に当たった。あったけぇな、場違いな感想が浮かんだ。雨がザァザァ俺たちの間に降り続ける。ぼろぼろぼろぼろ、一度堰を切った涙は止まらなかった。雨に濡れていても、涙ははっきりと判別できた。俺の鼻筋からも髪の毛を伝って落ちた水滴が、同じように流れていく。お妙は眉を潜めて、こちらを睨んでいた。
「卑怯だわ」
「あァ」
「どうしてそんなこと言うんですか」
「わるかった」
「嘘ですね、ちっとも悪いと思ってないでしょう?」
「そーだな」
お妙はそのままぼろぼろと泣いた。もしかしたら、こういう時、ただ黙って抱き締めてやるのが一番いいのかも知れねぇ。お妙もただ胸にしがみついて泣きゃあいいのかも知れねぇ。
 それをしないのは、俺にその資格がないからだ。俺にとって、そうそう易く触れていい女じゃない。お妙も俺の考えてることに気がついてんだろう。或いは、重荷になりたくないとか考えてんのか。だからお妙は俺にすがらない。あくまで対等な立ち位置を崩さず、頼むんだ。ほんとにかわいくねー女。無駄に頭のいい女だ。それに俺もバカな男だ。抱き締めもせず、それでも掴んだ手首は離さない。たった三十センチの距離がもどかしい。けれど歴然たる俺とお妙の距離だった。

 傘のない雨の日は、二人して濡れるしかなかった。いつもより幼い顔で泣く姿に、心の奥の、いつもは静かな部分が揺れ動く。その衝動を何と呼ぶか、俺はずっと避けている。


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プロフィール

HN:
黒蜜
性別:
女性
自己紹介:
社会人。
亀更新、凝り性で飽き性。
NL偏愛。
葛藤のあるCPだと殊更ハマる。
王道CPに滅法弱い。それしか見えない。

取り扱いCP:リクつら・名柊(夏目)・ネウヤコ(弥子総受け)・通行止め・イチルキ・ギルエリ・鷹冬(俺様)・殺りん・男鹿ヒル・銀妙・ルナミetc
その時々に書きたいものを、書きたいペースで。

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