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蝶夢

NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。

   

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ANOTHER WORLD

通行止め番外。
一度記憶をなくした一方さんが、だからこそ記憶を取り戻した後、何で昔もっとイチャこいておかなかったンだっていう後悔もあって打ち止めに激甘になっちゃってる話。
未来設定(打ち止め16歳)かつタイトル通りアナザーワールドに飛ばされてしまった超設定になってますご注意。

 この世で最も信じられるものは金だ。ミサカはそう信じている。人の心は不確かすぎて、目に見えない上にすぐにころりと変化する。信頼? そんなもの、馬鹿馬鹿しい。ミサカが一番信じてるのはお金。お金はどんな時でもミサカを裏切らない。だからミサカは、他人なんて信用しない。
「こんなところにいたのね、ってミサカはミサカはやっと見つけた妹に声をかけてみたり」
「は…?」
 灰色の路地裏で愛銃の手入れをする生活。賞金稼ぎの仕事はこのミサカにとって天職だ。血と硝煙の臭いがミサカの世界。ミサカのすべて。
 だから日溜まりみたいに笑う子どものことなんて知らない。関係ない。縁遠いもの、違う世界のものだ。それなのにそのガキはミサカに話しかけてきた。
「何、アンタ…ここがどこだかお分かり? この辺の裏路地は危ない連中の溜まり場なんだよ、ガキはさっさと出ていきな」
「うーん、見事に忘れられてるなぁってミサカはミサカは予想通りの展開にややガッカリ」
 会話が全く噛み合わない。変なガキ。一発撃ってやればビビって逃げるかにゃん、と安全装置を外しておく。不気味なことにこのガキはミサカにそっくりで、ミサカを幼くしたよう。けど、ミサカはこんな間抜けヅラで笑ったりしないし、赤の他人にほいほい話しかけたりしない。
「さっさと失せないと…」
「ねぇ、番外個体」
 言葉を遮って、ガキが柔らかく微笑んだ。まるで年上みたいに、妹と呼びかけてくるに相応しい姉みたいに。番外個体、と呼ばれて脳の機能が停止した。
「すべて忘れてしまったの?」
 脳裏に突如、流れ込んでくる映像。
 幼い子ども、大きさの合わないカッターシャツ、子どもらしく、けれど全てを包み込むような、暖かな笑み。
 ――ミサカは、この少女を知っている。
 コツ、と靴音がしてはっと我に返った。少女の背後から白い男がやってくる。一気に現実に引き戻された。
 まさか、こんなところで会えるなんて。
「…一方通行ァァア!!!」
 愛銃を乱射する。少女に当たろうが知ったこっちゃない。ミサカはこの男の首が欲しくて堪らなかった。ミサカの獲物。世界中の賞金稼ぎが狙う、懸賞金第一位の殺し屋。
「チッ」
 男は舌打ちして自分の銃を抜くと共に、少女を抱え込んだ。あの、怪物と恐れられた第一位が殊勝な真似をするもんだ。
「あはははは! どうしたの第一位?! そんな子どもを抱えて、このミサカから逃げられると思ってる? それとも殺し屋から執事にでも転職したのかなぁ!?」
「…誰に口きいてんだ三下がァァア!!」
 第一位が急に立ち止まった。鴨撃ちじゃん、と喜び勇んで撃つ。弾は真っ直ぐ第一位へ襲いかかった。なのに第一位に触れるか触れないかのすれすれのところで、弾かれたようにミサカの元へと返ってきた。
「っ!?」
 銃口に弾が戻った勢いで、銃を取り落とす。手首への衝撃が大きくて銃が握れない。せっかく第一位を見つけたのに。ミサカが殺そうと思ってたのに。
 踞っているとカチャ、と銃を突きつけられる冷たい感触があった。視線を上げると赤い瞳。まるで血の色だ。
「殺すなら、早く殺せばぁ?」
 からかうように笑って見せると、第一位は眉根に皺を寄せた。不快感を煽るようにさらに笑う。
 いい、その、嫌そうな顔。もっと見せてよ。
「ハイハイストーップ! ってミサカはミサカの終戦宣告!」
殺伐とした空気を変えたのは、例の少女だった。誰もが名を聞けば震え上がる賞金首の腕を気安く引っ張っている。
「もおー、ミサカが番外個体とお話するからあなたは大人しく待っててってお願いしたのにってミサカはミサカはあなたの血の気の多さに文句を言ってみたり!」
「…悪ィ」
 ミサカは目を見張った。あの第一位が大人しく拳銃をひいた? 血も涙もないと聞いていたあの第一位が? 呆然とするミサカに、アホ毛を揺らして少女は手を差し伸べた。
「番外個体、迎えに来たよって、ミサカはミサカは記憶のない妹のお迎えに来たことを告げてみる」
 無邪気な笑みが、それよりも五歳くらい幼い、記憶の中の少女と重なった。

「そんなのって、信じらんない」
 第一位の運転する車に連れ込まれて、少女がミサカに語った話はあまりにぶっ飛んでいた。
 曰く、今ミサカたちがいるこの世界は精神世界のようなもので、パラレルワールドだとか。現実の世界ではこのミサカと少女は姉妹の関係にあり、懸賞金第三位の御坂美琴のクローンである、とか。どうにも馬鹿馬鹿しくて聞くに耐えない。
「でも、ほんとだよってミサカはミサカは嘘吐かないもん!」
 目の前の少女は至って真剣だ。
「あのさー、宗教勧誘はお断りなんだけど。生憎ミサカが信じるのはお金だけって決めてるし」
「と、言いながら実は少しミサカのこと思い出したでしょ? ってミサカはミサカは期待を込めて聞いてみたり!」
 う、と言葉に詰まる。確かに、最終信号の顔は記憶にある。ミサカたちが姉妹であることも、何故だかすとん、と入ってきた。それでも。
「ミサカ、第一位のことなんて知らないし。現実世界では仲間だなんて、有り得ない」
 元々ミサカが覚えていたのは、ただ自分がミサカであるということだけ。拳銃を握れば身体が勝手に動いたから賞金稼ぎになった。出生のこととか、なーんにも覚えてないから、てっきり孤児か捨て子だと思ってた。今初めて、最終信号の名前と顔を思い出したとこなのに、それ以外のことまで信じられない。
「ふっふ~、有り得ちゃうんだなこれが!」
 最終信号は楽しそうだ。ああ、そうだ、このノリ。記憶にある。ウザったいと思いながらも決して振りほどけない温かな体温。
「もう一つの世界のことを覚えてる人は少ないの。お姉さまも忘れてたくらいだから。今はあの人に会って全部思い出したみたいだけど、ってミサカはミサカはみんなの現状についてもお知らせしてみたり」
「…はぁ」
 こんな夢物語みたいな話が有り得る? いやいやナイナイ。ミサカ頭痛くなってきた。
「で、そのお姉ちゃんがこのミサカに何の用?」
「妹に会うのに理由なんかいる? ってミサカはミサカは」
「あーハイハイわかった。第一位、そこで車止めて。降りる」
「わーっ、待って待って! 番外個体に記憶がないのはわかってるけど、もう少しミサカたちの立場を理解するべきだと思うの!」
「…ミサカたちの立場?」
 最終信号はしまった、というように口をつぐんだ。
「ミサカ、自分の身は自分で守れるし」
 どうでもいい、現実世界のことなんて。ミサカはミサカの生きたいように生きる。関係ないことなんて興味ない。
「んー…でもでも、今のこの人に負けてしまう番外個体には難しい話かも、ってミサカはミサカは懸念してみるんだけど」
「…どーいう意味?」
 敗けを指摘されてムッとした。あんな、反則技みたいなの、あると思わないじゃん。知ってたらミサカ負けなかったし。例えば最終信号を盾にとって…アレ? 何でミサカ、第一位が最終信号を絶対に守るって知ってるんだろう。
「今の番外個体は万全の状態じゃないの、それはこの人も同じ。記憶が戻れば能力も戻るって、ミサカはミサカは番号個体に自分のことを知りたくないの? ってミサカたちと一緒に来ることを勧誘してみたり」
 へにゃり、とアホ毛を下げて、最終信号が笑った。





「…なンのマネだ、こりゃ」
「あっは、随分余裕だこと。このまま引き金を引けば、ミサカはアンタの頭蓋骨を貫通させることが出来るんだけど」
「ハッ、やれるもンならやってみろ」
 深夜のベッドルームに忍び込む、っていう何ともやらしーシチュエーション、だけど相手は懸賞金第一位の人殺し。それじゃ色気より殺気の方がお似合いだ。ミサカはコイツを殺して、懸賞金を手に入れる。
「昼間のアレ、何なの? マジック?」
 驚いたことに第一位は最終信号と一緒のベッドで寝ていた。ナニコレロリコン? っていうかミサカと最終信号が一緒に寝るのが普通じゃん? 納得できない。やっぱ殺そう。
 拳銃を額に当てたまま会話を続ける。第一位はちらりと横目で最終信号の様子を確認する。一触即発なムードなど気にすることなく、呑気にすぅすぅ寝息を立てていた。
「記憶のねェ今のお前に説明しても信じねェだろ、どォせ」
「じゃあ第一位は記憶があるの、最終信号の言うことを信じるの」
「俺も全部を思い出した訳じゃねェ。だから俺の能力も完全には程遠い。…けど、俺は、コイツのことだけは信じる」
 第一位は白い指先で最終信号の唇を擽った。わーぁ、ガチでロリコンだ。セロリだセロリ。
「なンだお前、記憶、実はあンじゃねェの?」
「は?」
 セロリがふっと皮肉げな笑みを浮かべる。それが無性に腹が立つ。
「羨ましいって顔してンぞ」
 遠慮なく引き金を引いた。死ね。
「もー、深夜に迷惑でしょって、ミサカはミサカはあなたたちの非常識を怒ってみたり!!」
 結果として最終信号を起こしてしまうことになって、非常に大目玉を食らった。第一位は相変わらずピンピンしてて、ミサカはやっぱり手首を痛めた。暫く銃は握れそうもない。なにこの理不尽。
「オイ、俺は悪くねェだろォが。仕掛けてきたのはコイツ」
「どうせあなたも煽ったんでしょ、ってミサカはミサカの喧嘩両成敗!」
 どうやら第一位は最終信号に逆らえないらしい。ぐ、と詰まって苦々しげな顔をしている。ぶぁっひゃっひゃっひゃ、と笑っていたら「番外個体もだよ!!」と怒られた。むぅ。
「だって、第一位がロリコンなのが悪い」
「十六歳はロリコンじゃねェだろォが」
「そりゃ今の年齢の最終信号はね! けど、第一位はロリコンじゃん! このセロリが!」
「だーかーらー! 近隣迷惑でしょ! うるさーい!!」
 しーっ! と人差し指を立てて諭された上に、明日も早いからもう寝なさい、と母親ぶられる。何でミサカが一人で寝なきゃなんないの、と訴える。
「ミサカもおねえちゃんと寝たーい」
「あァ!?」
「番外個体…もう、そうなら早く言えばいいのにってミサカはミサカはいそいそとベッドを抜け出してみたり」
「は!? オイこらクソガキ!」
 慌てる第一位が滑稽だ。ざまぁ!
「ミサカはクソガキじゃない、だってミサカはもう十六歳だもん、相変わらずレディの扱いがなってないって、ミサカはミサカは今晩は番外個体と寝ます! おやすみなさい!」
「わーい♪ じゃあね、おやすみ第一位!」
 にやにやしながら言うと、第一位は憎々しげに睨んできた。いやー、愉しいね、これ! ホクホクしながらミサカは最終信号とベッドに潜り込んだ。懐かしい体温。久しく忘れていた。
「番外個体と一緒に寝るのも何年ぶりかなってミサカはミサカは隠せない嬉しさを吐露してみたり」
「…向こうの世界じゃ一緒に寝てなかったっけ?」
 そうだったけど、と最終信号はまたへにゃりと笑った。
「ごめんね、番外個体」
「何が?」
「一緒に行こうよって誘ったミサカが言うのもなんだけど、ミサカは番外個体が記憶を取り戻すことが、果たして番外個体にとって幸せなのか、わからないの」
 おやすみ、いい夢を。額に口付けを受けて、眠りにつく。
 最終信号が、ミサカの何を覚えているのかわからない。どうしてミサカは、何も覚えていないんだろう。













 俺の元にクソガキが姿を現せたのは、三ヶ月ほど前のことだった。その頃と言うのはクソみてェな生活で、人を殺して金を儲けていた。何故殺すか、そこに理由なンざ最早なかった。俺が俺であるために、殺しは必要不可欠だった。人殺しで、狂喜に満ちた怪物が俺だった。だから殺した。それが俺だと思っていた。いつの間にか俺には懸賞金が賭けられ、賞金首第一位として名を馳せていた。何人もの命知らずな賞金稼ぎが俺の首を求めて襲ってきた。その度に殺した。
 だから、コイツが俺の前に現れた時、記憶のなかった俺が殺そうとしなかったのは、不思議なくらいだ。
「やーっと見つけた! ってミサカはミサカは嬉しさのあまりあなたに抱きついてみたり!」
「あァ!?」
 路上を歩いているといきなり後ろから抱きつかれ、少しだけよろめいた。なンだコイツ、俺を誰だと思ってやがる、そう言って振り払おうと思った。が、沈黙して離れない少女の身体が小刻みに震えているのがわかって、できなかった。
「…なンだ、お前」
「一方通行」
 すり、と背中に頬擦りされる感触に、全身の血が逆流しそうになった。頭が働かない。あくせられーた、甘ったるく呼ぶこの声を、俺は知っていた。
「ミサカのシリアルナンバーは20001号で、コードもまんま“打ち止め”」
 ぎゅ、としがみつかれて表面上じゃない、身体の奥の部分が締め付けられる。あの日と同じ台詞を聞いた瞬間、どっと流れ込ンでくる映像に、全身が痺れた。俺がこの少女をどれほど大切にしていたか、どれほど救われたか、どれほど守りたいと願っていたか。それなのに、どうしても一緒にいられなくて、それがどれほど苦しかったか。思い出した。本当は、知っていた。
 喉の奥から、声を振り絞った。
「…オイ、離せ」
「…どうして、」
「お前の顔がみてェンだよ、クソガキ」
 顔が見たいと言ったくせに、緩んだ腕を引き寄せて正面から抱き締めた。茶色のアホ毛の柔らかさも、砂糖菓子みたいな甘い匂いも、全部全部知っている。身体が覚えている。
 なのに、なンで忘れてたンだ。こンなに、いとおしいと思っていたもンを。
「打ち止め」
「…覚えてるの」
「今思い出した」
「ひっどい、ミサカはちゃんと覚えてたのにって、ミサカはミサカはぶーたれてみたり」
「悪ィ」
 ぎゅう、と首に回してきた腕に力がこもった。もう一度悪ィ、と繰り返した。往来だとか、人の目だとか気にならない。気にしていられない。目を閉じて強く抱き締める。
「何が?」
「お前を一人にさせた」
「…もう、いいよって、ミサカはミサカは、あなたがミサカのことを思い出してくれたのなら、もう、何でもいいよ…」
 すん、と鼻をすする音が聞こえて、どうしよォもねェなと思った。ガキだなンだと子ども扱いしてた時から、コイツはちょっと異常なくらい、大人びたところがあった。胸の奥がどうしよォもなく軋んで、苦しくて、いとおしくて。抱き締める以外にも伝えたいのに、バカみてェに身体は打ち止めを離そうとしない。離したくない。
 何分路上で抱き合ってたか覚えてねェし、まだまだ足りねェ。照れくさそうに離れたのは打ち止めの方だった。ゆっくり話がしたい、と告げられて、近くのホテルを選んだ。
「ミサカたちはあの世界から、このパラレルワールドに飛ばされたんだよって、全部を思い出せてないあなたに説明してみるんだけど…って、聞いてるの?」
 足の間に打ち止めを座らせ、後ろから腕を回し、肩に頭を乗せた状態でソファーに腰かけている。
「聞いてる」
「ほんとに? なんだか真剣さが足りないかも…ってミサカはミサカは真面目に聞いてって訴えてみたり」
「だって、お前のことしか思い出せてねェンだから、仕方ねェだろ」
 コイツの話によると、何者かの力によってこのパラレルワールドに飛ばされたらしい。科学技術による平行世界への空間移動なのか、魔術による空想的世界の超体験なのか、よくわからないンだと言う。打ち止めには初めから全ての記憶があった。ミサカネットワークも健在で、すぐに妹達に連絡を取った。記憶を共有させることで、妹達にも記憶を取り戻させた。次に打ち止めはネットワークを利用して同じように記憶のある人間を探させた。オリジナルにコンタクトを取ろうとしたが、接触した10032号から「残念ながらお姉様には記憶がないと思われます、とミサカ10032号は報告します」という連絡があった。「ですが、代わりに上条当麻を発見しました、とミサカ10032号は彼に記憶があることを伝えます」と報告を受け、打ち止めは最弱の元へと走った。最弱は同じく記憶を持つ打ち止めから話を聞き、義賊の真似事をしている内に賞金首第三位に指定されてしまった御坂美琴に会いに行った。そこでオリジナルも記憶を全て取り戻し、今では10032号と行動を共にしつつ、現状の原因を調べているンだとか。最弱は禁書目録を探すべく、また、同じようにこちらへ飛ばされた人間たちに会うため、途中で打ち止めと別れたようだ。
「どうやら記憶が戻ると能力も取り戻せるようなの、ってミサカはミサカはお姉さまがそうであったことを理由に仮説を述べてみる」
 打ち止めはアホ毛を揺らして、くるりと振り返った。打ち止めと再会して、俺もベクトル操作を取り戻した。が、向こう側にいた頃の能力を完全に取り戻した訳じゃねェ。記憶だって不完全だ。尤も身体の自由がきくのはメリットだが。
「誰かがミサカたちの能力を奪って悪用しようとしてるみたい、ってミサカはミサカはネットワークから流れてきた情報を教えてみたり」
 つまりこの世界では記憶と能力がニアリーイコールになっている可能性が高い。こちらに飛ばすと同時に記憶と能力を奪った存在がいるということだ。打ち止めが最弱と行動していた頃、レベル4の発電能力を持つ男が襲ってきたそォだが、打ち止めによるとあれは番外個体のものらしい。
「ミサカはミサカの電磁波がわかる。あれは間違いなく番外個体のものだった」
 最弱の力でその場は辛くも逃れたが、男の存在は謎のままだ。
「ってことはなンだ、この世界には俺の力を無断借用してるヤツがいるってことか」
「そうなるねってミサカはミサカはそれがあなたに懸賞金を賭けてる人間なのでは? と疑ってみる」
「フン…」
 そりゃとンだ命知らずだなァとニヤリと笑えば「わーい、真っ黒い笑みだよーって、ミサカはミサカは少し怯えてみたり…」という反応があった。それを無視して首筋に鼻先を埋め、甘えるように擦り寄せる。
「ふあ、ど、どうしたの、っていきなり甘えんぼなあなたにミサカはミサカは動揺を隠せなかったり!」
「悪ィか」
「わ、悪くは、ない、んだけど…だって、だって、向こうにいた時は、あなた、そんなデレたりしなかったもん、ってミサカはミサカは普段と違うあなたに戸惑っていることを伝えてみるんだけど、ひゃっ、っていうかそういうことするのはいっつもミサカの方だったじゃないってミサカはミサカはややパニック!」
 首筋に軽く吸い付いて、黙らせるように唇を寄せた。やっとキスできた喜びに身体の芯から痺れる。何度も何度も柔く唇を吸ってやる。身体はゆっくりとソファーへ押し倒していた。
「ま、待って、ミサカはシャワーが浴びた、んん、」
「待てねェよ」
 身体中が熱く滾って、今はただコイツの温度を確かめたかった。






「な、なんか…向こうにいた頃より三割増しで甘くない? って、ミサカはミサカはあなたのデレ具合にびっくりしてることを伝えてみる」
「気のせいだろ」
 それからは毎晩行為の有無に関わらず、打ち止めを抱き寄せて眠った。
 向こうにいた頃より甘い、もしそう感じるのなら、それは俺が若干後悔しているせいかもしれない。
 離れるのがわかっていたら、あンなに離れることが苦しくなるなら、もっと抱き締めてやれば良かった。
 もっと伝えてやれば良かった。
 もっと一緒にいれば良かった。
「…打ち止め」
「なぁに、一方通行」
 ちう、と額に口付ける。目にも口付けを落とす。頬にも、耳にも、鼻先にも、勿論唇にも。
「は、はずかしいよ、あなた」
 真っ赤になって身じろぐ、この愛しい存在を、俺は二度と離したりしない。
 番外個体を探したい、という打ち止めと共に旅をして、その番外個体は三ヶ月後に見つかった。出会い頭に拳銃ぶっぱなしてきた可愛いげのねェ妹も最初は記憶になかったため、なンだコイツと思っていたが、少しずつそォいやこういうヤツだったなァと思い出し始めた。同時に俺の能力も、また少し戻ってきた。
「ヨミカワやヨシカワに会えば、また二人の記憶が戻るかも!」
 という案に従って、三人での旅は続いている。ロシアでもこの三人だったなァ、とあまり愉快ではない記憶が甦る。あン時は肝が冷えた。本気で打ち止めを失うかと思った。
 そンな不安な記憶が戻ってきたもンだから、クソガキに触れて確かめたくなるのは当然のことで。
「なァ、今晩…」
「ごめんね、今晩は番外個体と一緒に寝る約束してるの、ってミサカはミサカはあなたが言わんとすることを読み取って謝ってみる!」
 困ったように笑って断られるのは、もう何度目のことか。番外個体が加わって一番苦々しいことがコレだったりする。わざとなンですかァ? と番外個体を問いただしたい。が、ニヤニヤと笑われるのがわかっているためできないでいる。俺に関する記憶もあまり戻っていないらしいが、ふとした会話が記憶がないにしてはあまりに自然なので指摘してやると、本人も戸惑って考え込む、という場面が増えた。
「いいけどよォ」
 謝る打ち止めを引き寄せて、首筋に噛み付いた。「痛いよ」と涙目になったのを舐めて、釘を刺しておく。
「あンまお預け食らわせてっと、後が怖ェぞ。お前今度、絶対寝かせねェからな」
「ななななに言ってるの?! ってミサカはミサカはやっぱりあなた、三割増しで甘くなってる!!」
 じたばたともがく打ち止めを、封じ込めるように抱き締める。
「…あなた?」
 再び離れるのが、俺は怖ェ。ましてや俺は一度お前の記憶を失ってンだ。お前は、平気なのか。
 不安を察したらしい打ち止めが、抵抗をやめてぽんぽんとあやすように背を擦る。
「あなた。このミサカは、何があってもあなたのことを忘れたりしない。何があっても、あなたを見失ったりしない。絶対、あなたに会いに行く」
 ラストオーダー。
 俺の希望。
 俺の最も愛した光。
 お前が俺を愛してくれた以上に、俺もお前を愛してやりてェンだ。そう思ってるのはずっと前から変わらないのに、なンで昔の俺は、それをもっとお前に伝えてやらなかったンだろォな。
 こンなにも、俺は、お前が。



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プロフィール

HN:
黒蜜
性別:
女性
自己紹介:
社会人。
亀更新、凝り性で飽き性。
NL偏愛。
葛藤のあるCPだと殊更ハマる。
王道CPに滅法弱い。それしか見えない。

取り扱いCP:リクつら・名柊(夏目)・ネウヤコ(弥子総受け)・通行止め・イチルキ・ギルエリ・鷹冬(俺様)・殺りん・男鹿ヒル・銀妙・ルナミetc
その時々に書きたいものを、書きたいペースで。

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