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蝶夢

NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。

   

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カサブランカ融解

ややアダルト。
微かな古ラミ要素があるような。
2年後設定です妄想がいっぱいです。

 それで、と古市は紙パックを地面に叩きつけながら口を開いた。ストローの先からコーヒー牛乳が零れたが、今の彼には些細なことだった。
「あ?」
「それで、ヒルダさんとはどこまでいったんだ」
言われた方、つまり男鹿は弁当をかっ込むのに忙しい。いつものように屋上で胡座を掻いて昼休みを過ごすのは、何だかんだ久しぶりだった。一応ミルクを卒業したベル坊と親子そろってもぐもぐと咀嚼する様は、長閑かで微笑ましくさえある。相対する古市は対照的に緊張の色が見て取れる。
「…何言ってんだ、お前」
「いやいやいや。マジで聞いてんだけど。どうなの? キスは!? もしや最後まで?!」
「ベル坊あっちで食おーぜ」
「ダ」
「待て待て! 俺ら今はこうやって呑気にメシ食ってるけど、つい最近までそれどころじゃなかっただろ。あれからどうなってんの?」
がしりと肩を掴まれ真顔で詰め寄られるも、男鹿の表情に変化はない。古市は視線をその真横に移した。
「ベル坊くーん、どうなんだ? お父さんとお母さんはちゅーしてゴハァ!!」
「黙れキモ市」
きょとんとしたベル坊の頭にぽん、と手を置き「気にすんな」と言う男鹿は、一秒前に人を殴ったとは思えない爽やかな父親ぶりだった。諸事情で結構な修羅場を魔王及びその父親と共に潜り抜けてきただけあって、古市の回復は早くなったようだ。めげず、尚も募る。
「答えないってことは肯定だな? イエスなんだな!? “はい”なんだろ!」
「なんもしてねーよ」
「ほらやっぱりー!! …は?」
「病気?」
「ちげーよ! 何て?」
「病気かお前」
「そこじゃねぇ!」
聞き間違いの可能性を視野に入れ、慎重に一つずつ確かめる。
「…口付けは? マウストゥーマウス」
「してませんが」
「ぎゅっとハグ」
「してない」
「手は? 手ぐらい繋いだことあるだろ。カップル繋ぎ的な」
「あ゙ぁ?」
本当に何もしていないらしい。え、どういうこと? 古市は戸惑った。先の一件で自他共に夫婦と認めた二人だから、てっきり進展があったと思っていたのに。男鹿は無心で弁当を食っている。古市の手には焼きそばパンが握られていた。力を入れすぎたようで、ぐしゃりと歪んでいる。それをやや整えてから、サランラップを丁寧に剥いだ。
「…って何でだよ! 夫婦なんだろお前ら! 確かにすでに熟年ぽい部分はあるけど!」
「…ぉぅ」
「何、照れてんの!? 今更すぎだろ、今まで姫抱きやら、キスするしないやらって散々やってきて、周りももうわかってんだよ! なのに何だそれ、こないだのアレは何だったんだって話だから! ベル坊魔界に返せって言われて大魔王とも勝負して、じゃあ契約してるからベル坊は仕方ないとしてヒルダさんだけでも返してって言われて、公衆の面前で俺の嫁宣言したのはどこのどいつだ!!」
ぐしゃっと焼きそばパンが飛び散った。ベル坊は落ちた焼きそばを拾って口に入れようとする。「こら、食うな」と男鹿が片手でそれを制した。
「オレだな」
「じゃあなんなんだよ、好き合ってんだろ」
「うるさい黙れキモいロリコン」
「何で暴言!?」
「ってヒルダが」
ベル坊は男鹿の胡座の上に座ると、傍にあったコーヒー牛乳を掴み、ストローに口をつけ無遠慮に啜った。
「ラミアに変な真似したら殺すって」
「だから違うって…」
ベル坊と男鹿、そしてヒルダの件は取り敢えず円満に収まったが、古市の方は未だに解決していない。




 「今夜は三人だけだ」
その日帰宅すると、玄関で靴の少なさを見たヒルダが思い出したように告げた。男鹿の両親と美咲は温泉旅行に出掛けたと言う。平日の方が安いし混んでないから、という理由で選んだため息子夫婦は不参加と初めから決まっていた。サボっちゃえば、という美咲の案にも、たまには親子水入らずでゆっくりしてください、と遠慮した。三人分の荷物を持たされた父と、手ぶらで楽しげに出ていった母娘の姿が昼間見られたが、息子は一人知らずにいた。
「オレ、聞いてねぇ」
「姉上から誘われたが、貴様の家族にはいつも世話になっているからな、親子水入らずでどうぞと私が断った」
それで今日の弁当はヒルダが作ってたのか、と納得する。ふーん、あっそ、短い相槌を打った男鹿は、はたりと気がつく。
「…まさか、今夜は、」
「無論、私が夕飯を作る」
予想通りの言葉に男鹿は無言だった。ヒルダが少し目を細める。
「なんだその不満げな顔は」
「イエ、ナンデモアリマセン」
出来ることなら無益な戦いは避けたいというのが本音だ。そっと視線をずらして言葉を選ぶ。
「…なんなら、お前も疲れてるだろうし、出前でも、」
「たつみ、何が食べたい?」
回避ルートはあっさりと塞がれた。逃げられない。死亡フラグが立っている。しかし、にこりと微笑んだヒルダに対し最早何も言えなかった。どうにも名前で呼ばれると逆らえない。
「…コロッケ」
「わかった」
ヒルダは満足げに頷いた。ベル坊をだき抱えながら、下から男鹿を見上げる形でふふんと不敵に笑う。
「三年目の成果を見せてやる」
さぁ坊っちゃま手を洗いましょうね、楽しげに母親と息子が洗面所へと向かう。その後ろ姿を父親はぼんやりと見つめる。失神するほど不味かろうが、結局食うので結果に変わりはないだろうと考える。

 ヒルダが夕飯を作っている間にベル坊と二人で風呂に入る。姉きとおふくろは今頃豪勢な料理食って、温泉にも浸かって、大満足なんだろうなーちくしょう、などという思いが過った。でもまぁ、家でヒルダとベル坊の三人だけで誰にも遠慮せずのんびりできるのは、案外いいかも、と思い直す。食事の不安という点を除くなら。それでも昼間の弁当を振り返るに、大分マシになってきたような気がしないでもない。いける。男鹿は勢いよく立ち上がって湯船を出た。
「あぁ、上がったか」
「………」
つい五分前の決意を否定して敵前逃亡を本気で考えようか悩む。苦悶の表情を浮かべているように見える禍々しいコロッケが食卓の上に鎮座している。コロッケは何故か男鹿にムンクの絵画を思い出させた。食卓ってゆーか処刑台だろこれ。なんでこれが「いける」なんて思ったんだろ。男鹿は恐怖した。しかも一個、口っぽいところから何かを吐いてる奴がいる。
「それはチーズを入れてみた」
ちょっと形が悪くなってしまったがな、などとヒルダが若干恥じらう。問題はそこじゃないと思ったが、口にするような猛者は存在しない。ともかく毒でないことははっきりした。けれど何の安心にもならない。見かけは昔より酷くなっている気がする。色とか。
「坊っちゃま、ご飯にしましょう」
「アーイ!」
ベル坊が嬉しそうに返事をして、普段通り定位置に着く。男鹿とヒルダが並んで座り、その間にベル坊の子供用の椅子がある。母親は甲斐甲斐しく息子の食事の世話をしている。「はい、アーン」と息を吹き掛けてきっちり冷ましてやってから、スプーンを口元へ運んでやる。その隣で父親はまさに戦いを挑もうとしていた。吐いている奴、もとい中身のわかっているチーズ入りコロッケを選ぶ。どうにでもなれ、と思い切って囓りつく。そしてごはんを一気にかき込んでから噛み締めた。
「どうだ?」
ベル坊の口へスプーンを運ぶ手を止めて、感想を訊ねる。
「…ふつーにうまい」
男鹿は拍子抜けしていた。もっと酷い味がすると思ったのに。その次に選んだコロッケは中が紫色だったが、不思議なことに味だけなら昼間の弁当よりも良かった。恐らくヒルダの腕前の向上と、男鹿の胃袋の強化両方による相乗効果だろう。
 ふいに、ヒルダが男鹿の顔を見て微かに笑った。
「ついているぞ」
細い指先が伸ばされるのを他人事のように認識していると、やんわりと口の端を擽られた。米粒を摘まんだ手は持ち主の口元へとかえる。
赤い舌がちろりと覗いて白い米粒を含むのを見た瞬間、かっと血が集まるのを感じた。
「なんだ?」
「…なんもないです」
不可解そうな視線から目を逸らす。ああ、古市のアホが昼間変なことを言うからだ。ウザ市が。ひっそりと悪態を吐いた。

 無難な食事を終え、ヒルダは洗い物を済ませた後風呂に入った。男鹿はベル坊の相手をしつつ、だらだらとテレビを見ていた。最近のベル坊はちょこまかとよく動く。外出先では特に目が離せないが、家の中なら知れているという安心もあって、はっと気がつくとリビングからいなくなっていた。探そうと腰を上げたところで、ちょうど風呂上がりのヒルダがノートとペンを片手に入ってきた。日課にしている育児日記をつけるつもりらしい。
「ベル坊知らねぇ?」
「また見失ったのか? 大方貴様の部屋だろう」
二人して男鹿の部屋に向かう。しかしそこにもベル坊の姿はない。ヒルダがばっと布団を捲ったがやはり居なかった。
「そろそろ眠くなられる時間だが…」
時計を見ながら呟く。どこかで眠りこけてしまったのかも知れない。あちこち見て回って、両親の寝室の扉が僅かに開いているのを見つけた。
「ヒルダ、こっち」
この家で最も広いベッド、つまり男鹿家のビッグマムのベッドの上で幼児が丸くなって寝息を立てている。起こさないよう静かに部屋に入り、抱き上げようとした母親を「まぁ今日はいいんじゃねーの」と父親が制した。
「…いいのか?」
「そりゃいいだろ、おふくろからしたら孫が寝てんだ」
そうか、と小さく相槌を打つ。
枕元に灯したオレンジ色のライトが、穏やかに微笑むヒルダの顔を照らしている。透き通るように白い指先が、慈しみをもって子どもの頬をなでた。すり、と指に頬擦りする寝顔を眺め、ふふりと笑う。
こいつ、こんな顔もするんだよな。男鹿はぼうっと魅せられたように見つめていた。いや、知ってたけど。わかってたけど。たぶん。
灯りによって艶やかに光る金糸は、華奢で同時にまろやかな女の肩をなぞってはらりと滑り落ちる。
――オレが守りたかったのは、これだったんだ。
「…男鹿?」
呼ばれた時、男鹿の指はヒルダの髪をゆるゆるといじっていた。
訝しげな翡翠の瞳と目があった途端、さっと手を離しヒルダから距離を取る。何やってんだオレ。
「いや、なんも」
逃げるように背を向けて両親の寝室を出た。予想以上に柔らかな感触が指先に残っている。
なんかオレ変なエンジンかかってねぇか? 心臓がおかしい。絶対昼間のせいだ。男鹿はそう結論付けた。あとはもう寝るだけ、明日になれば普段通りに戻ってるはずだ。
 言い聞かせて自分の部屋に入る。今夜は一人で寝ることになりそうだとベッドに寝転ぼうとして、一冊のノートが落ちているのを見つけた。ヒルダのノートだ。さっき布団を捲った際に忘れたらしい。
ノートの中を男鹿は見たことがない。ヒルダがいつも寝る前にごそごそと何か書いているのは知っていた。真面目なヒルダのこと、どうせ教育的な内容だろうと思い、気にも止めていなかった。ベル坊のことばかりに違いないと思いつつも、ノートを開いて読んでみる。悪い気はしない、こんな所へ置いておく方が悪いのだ。
果たして中は、ベル坊のことでいっぱいだった。しかし、予想に反してベル坊のことばかりでもなかった。ベル坊と同じくらい、男鹿のこともよく出てきた。今日は坊っちゃまの歯が生えてきているのに気がついた、男鹿にコロッケを不味いと言われた。坊っちゃまが再び排尿期に入られた、以前から行きたいと言っていたパンナコッタの美味しい店に男鹿が連れていってくれた。坊っちゃまが母の日だからと私に花を下さった。嬉しい。押し花にして大事に持っていようと思う。男鹿がそれを良かったなと言う。来月は父の日がある。ヒルダは丁寧に、丹念に、ひとつひとつを記していた。
――今はまだこうして、慎ましくも穏やかに、三人揃って暮らしているが、いつかは。
一番最近の日記には消しゴムで消した痕がある。日付を見ると、先日の魔界での一件の前日だった。ヒルダは予感していたのだろう。今のままで、いられたら。日記にはそんな想いがひそやかに綴られていた。
 ヒルダを失いかねない場面には、これまで何度も出くわしてきた。自分の無力を痛感した時もあったし、ヒルダが攻撃されて本気で殺意を覚えた時もあった。その度に取り返してきた。自分の元へ連れ戻してきた。
当たり前のように。
当たり前、だから。
そう、思っていた。これからだって、手離すつもりなんかない。
「…男鹿、私のノートを――」
前触れなくドアノブが回され、女が部屋に侵入した。日記から顔を上げた男と目が合う。ノートの所在を見咎めた一瞬、女は固まって、わなわなと震え始めた。
「…貴様、そのノートを読んだのか?」
ヤバい、と思う間もなく一発食らいベッドに沈む。仰向けに倒れた男鹿に馬乗りになり、ヒルダはすかさずノートを奪い取った。中を開き、自分で読み返して確認する。そんな変なことは書いておらんはずだが。
「…ヒルダ」
男鹿がむくりと起き上がる。退こうとしたところ、腰に腕が回された。ベッドに腰掛けた男鹿を、真正面から見据える形で跨がっている。意識はすでに日記から男鹿の黒い瞳へと奪われていた。
 ヒルダの腰は細く、腕を回すとより一層くびれがわかる。その感触に、腹の底へ熱が溜まる。
それを意識しないよう、反対の手で金糸を掬った。やわくて、さらさらとして、気持ちがいい。
「オレの傍に、いるんだろ」
「…なんだ、急に」
そのつもりだが? とヒルダが笑う。髪をもてあそんでいた手が、次は耳たぶをやわやわと擽る。
「…くすぐったいな」
言いながら、溢れた吐息に甘さが含まれているのを男は見逃さなかった。そうか、とどうでも良さげに呟いて、顔を近づける。耳たぶを擽っていた手が白い頬に添えられた。それだけで女は従順に目を閉じた。まつげ、長ぇな、頭の片隅で考えながら顔を少し傾けて目を伏せた。
唇が重なったのは数秒だった。けれどその柔らかな触感は脳を甘く痺れさせた。同時に急激な飢餓感に襲われる。物足りなさが募って再び唇を合わせた後、ヒルダが、は、と息を落とした。その際に開いた隙間から舌を入れ、もどかしいほどゆっくりと相手の舌を味わう。唾液の絡む感覚が、身体の奥底からじわりじわりと侵食してくる。腰に回した腕にも力が入る。
 名残惜しく舌先を触れ合わせ、そっと唇を離す。熱に濡れた瞳が男鹿を見ていた。衝動のままに任せたくなるのを、腹に力を込めて耐える。
「…したいのか?」
意外そうな声が尋ねる。抵抗の気色はなかった。そりゃ意外だろうと、本人も意外に思っている。
「…お前がしたいなら」
ヒルダは不服そうに睨めつける。
「なんだその、思春期真っ盛りの男子高校生が言う、『お前が付き合いたいなら付き合ってもいいけど』みたいなのは。『抱かせてくださいお願いします』ぐらい言えんのか」
誰が言うか、というセリフは出てこなかった。それよりも言ったらいいのか? という疑問の方が大きい。
男鹿はまだ少し躊躇っていた。今までヒルダとこうなることを意識的に避けてきた。触れれば、途中でやめることなどあり得ない。一気に全てを奪うことになるのは目に見えていた。
 ぎしり、とベッドが鳴る。ヒルダが男鹿の上で身動ぎした。しなやかな太ももがきゅ、と男鹿の身体を挟むと、男の性が反応しそうになる。
 「たつみ」
 あぁ、と諦めにも似た気持ちで思った。
そこで、呼ぶなよ。
「するのか、しないのか、」
首に細い腕が絡む。豊かな胸が厚い胸板によって押し上げられる。
耳元で悪魔が囁いた。
「どっちだ?」
 唇を塞ぎながら乱暴とも言える強さでベッドに押し倒した。手首を掴んで押さえつける。獰猛さを伴って口内を蹂躙する。下でんぅ、と短い声が聞こえた。
口付けを中断するのは惜しかったが、さすがに乱暴だったかと思い顔を上げる。最後の確認だった。
「…いいのか」
荒い息を隠そうともせず、今更だな、と潤んだ目でヒルダが答えた。それにふっと笑う。
「じゃ、遠慮なく」
白い首筋に、歯を立てた。

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プロフィール

HN:
黒蜜
性別:
女性
自己紹介:
社会人。
亀更新、凝り性で飽き性。
NL偏愛。
葛藤のあるCPだと殊更ハマる。
王道CPに滅法弱い。それしか見えない。

取り扱いCP:リクつら・名柊(夏目)・ネウヤコ(弥子総受け)・通行止め・イチルキ・ギルエリ・鷹冬(俺様)・殺りん・男鹿ヒル・銀妙・ルナミetc
その時々に書きたいものを、書きたいペースで。

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