蝶夢

イチルキ。Ｒ１５程度。
一度別れを経験したからこそ、不安な一護。

　やわやわと挟み込むような口付けを何度も繰り返す。甘ったるいキスの仕方は、どうやって身に付いたのかわからない。ただ大事にしたいと思ったら、自然とそういうキスになった。
　白く細い腕が首筋に絡む。ベッドに仰向けで寝転んだ上にのし掛かる体重は、軽い。手首も脚も折れそうに細くて、紅い唇も小さくて、そもそも全身がちっこくて、それなのに布越しでもはっきりわかる全身の柔らかさが気持ちいい。抱き締めたら、壊れてしまいそうな儚さがいとおしい。
　何度もキスを繰り返していた唇が薄く開いたら、すかさず舌を入れる。余すことなく、けれどゆっくり解すように。んん、と鼻にかかった声がやけに扇情的で、でも正直コイツ相手なら何だって触発されちまうんだと思う。それは俺がまだ高校生のガキだからか。
　口には絶対出さないが優しくしてぇ、とは思ってる。いつだって。なのに舌が絡んでくちゅりと唾液が音を立て始めると、右手が別の人格を持ったように動き始めて、するりと華奢な背中を撫で下ろす。頭が痺れて、上手く思考が纏まらない。ぴくりと身体を震わすだけで、嫌がらないコイツが悪いんだ。
　そうこうする内に右手は勝手に柔い太股を撫でている。その柔らかさもさることながら、ふわふわした肌の感触も、なんかこう、たまらない。何でこんな気持ちいいんだろ。しかも、俺はこれを好きに触れることを許されている。何度も俺のかさついた指先がうち太股を往復していると、すり、と足を擦り合わせるのがわかって、下腹あたりが熱くなる。そろそろ本格的にやべぇと思う。やばいっつか、止まれない。
　一緒の家で暮らしてた時は、しかもそのさらに前には同じ部屋で寝てたってんだから、変な夢見ちまうのなんて当たり前だろ？　まぁ、今もだけど。つうか、お前が思ってる以上に俺はヤりてぇと思ってるんだが。あ、ヤりてぇってのは正確じゃないかもな。例えば短いスカートからちらりと下着が見えた時だとか。何も言わねぇけど、ガン見しちまうのは仕方ねぇだろ。だからスカートもうちょい伸ばせって言ってたんだよ。他にも下にキャミソール着てるからって、平気で俺の前で制服着替えたりすんなよ。首筋に吸い付きてぇの、すげぇ我慢してたんだぞ。色々無防備すぎんだ、襲われても仕方ねぇんだぞ。言い訳めいたことを考える。大事にしたい気持ちと相反する欲求を、コイツはどう思ってんだろ。
　唇を少しだけ離すと、ちろりと舌が見えた。なんか、エロい。あと、泣きそうな表情が、エロい。でもたぶん俺もエロそうな顔してる。
　なんか言やあいいのに、こういう時コイツは何も言わない。何も言わねぇってのは、続きしてもいいってことなんだよな？　いつも都合のいい解釈をして、俺も何も言わない。
　ただ怒ったような、切なげな目を向けられたら、止められなくなるのは必至だ。指先を滑らせ、中心へと忍ばせる。
　ゆっくり、ゆっくり解して、優しく愛してやりたいのに、あと何回コイツが抱けるかわからないという不安が、気を逸らせる。先のことなんか、わからない。無力さも、切なさも、孤独も、別れも。早く、早く。もっと、もっと深く。獣染みた欲求を抑えて、出来るだけそっと、丁寧に触れる。ただ側にいれれば満足だという想いもある。それ以上に、コイツの身体を知ってしまったからには、もう二度と手放せないという予感もある。
　それでも今は、こうして、知覚して、言葉を交わして、触れることが出来る。この紫の瞳を、黒髪を、細い腕を。お前を形作る全てを。

「…ルキア…」

　ただ、名前さえ呼べれば、呼んでくれれば、それだけで。