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蝶夢

NL至上主義者による非公式二次創作小説サイト。

   

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Not yet used to something.

鷹臣くんが真冬さんの手をぺろぺろする話。
いい雰囲気を意識・無意識に避ける真冬さん。
それを追い詰める(必要が今までなかったため照れがあったりちょっと不機嫌になる)鷹臣くん。
そして追い詰め加減を失敗して暴走する。
ぬるいけどちょっとエロいのでR15。
見ようによっては鷹冬←あやべんかもしれない。
忍者の扱いがある意味でひどいです。
ギャグだと笑って読める方向け。


 別に何てことのないある日、突然鷹臣くんに顎を掴まれてキスをした。首を振って離れようとしたけど、強く掴まれてた上に両手で固定されたため、逃げられなかった。そうこうする内に口の中へ舌が入ってきて、くちゅりと唾液が音を立て始めた。訳がわからなくて、顔に熱が集まって、頭は酸欠みたいにぼんやりしてきて、ふっと力が抜けたところで、ようやく解放してくれた。当然だけど「なに、すんの、」と息も切れ切れに文句をつけたら、何故か鷹臣くんの方がむすっと不満そうな顔をしていた。何故。こっちは被害者だっつーの。
 そんな風にして一応「お付き合い」なるものを始めた私たちに、今のところそれ以上の進展はない。進展はない、なんて言い方をするとまるで私が期待しているみたいに聞こえるかもしれないけど、事実は全くの逆だ。相手はエロテロリスト、付き合い始めにいきなりキスしてきたような男で、しかも女性を取っ替え引っ替えしてきたことも知っている。何せ手が早いのだ、何かと。それに対してこちらは純情可憐な花盛りの女子高生☆(キラッ)。手を繋ごうか、繋ぐまいか、そうこう悩んでいる内に、きゃっ手が触れちゃった! ドキッ☆みたいな恋の展開(ラヴ・ハプニング)を夢見ている年頃なのだ。つーかぶっちゃけそれぐらいでいい、駆け足で大人の階段なんて登りたくない、ほのぼのでいい、それがいい、そうしてくれ。まぁ、そう考えてる時点で付き合う相手間違えたんじゃないかって気もする。それでも付き合っちゃったもんは仕方ない。
 と言って何か特に変化があったかというとこれが全くない、色気の欠片もない、青春の爽やかさもない。いや別に期待なんかしてないけど。でもさぁ、相手はあの佐伯鷹臣だよ!? 今までセクハラもされてきてるわけだし! 一応セクハラし放題の立場になったんだから、私が身構えるのは当たり前じゃん?!
「お前、風呂入んねぇの」
「えっ」
 夕飯を食べた後、ぐだぐだ物思いに耽っていたら促された。きょとん、と聞かれて意味のない言葉が口をついた。や、付き合う前もそりゃお風呂借りたりしてたけどさ。お泊まりもしてきたけどさ。
 付き合ったら、色々、意味が変わるくないか?
「入らねぇなら、先入るが」
「入る! 入るよ、当たり前じゃん!」
 もうタオルも着替えもお互いの部屋にも置いてるから、そのまま風呂場へ向かうだけで良かった。あー、なんかどっと疲れた。照れて損した。湯船でぶくぶくと泡を吹いた。でも、ちょっとほっとしていた。今までゆらゆらしてたシーソーみたいな関係が、一気に一方向へ傾いてしまいそうで、怖いと思う。幼なじみ、師弟、教師と生徒、男と女。憧れであって、畏怖であって、一つの感情にはならない。それが今までだったから。つい、身構えてしまいがちだ。
「考えすぎ…かなぁ」
 そうだよね、傍若無人で自由が服着て歩いてるような人間、それが鷹臣くんだ。遠慮するはずがない、特にエロ関係は。つまり、鷹臣くんもそういったことはゆっくり進めようと思ってるか、対私限定でそれほどそういうことを求めてないのかも。
「…それはそれで何か微妙」
 いや、いいんだよ、いいんだけどね、迫られても困るし。加えてそういうことに及ぶってのが想像できないし。その相手が私ってことも。
 ってなると、何で鷹臣くんは私と付き合ってんだ? 意味がわからん。考えても考えるだけ無駄か…。
「まー、なんとかなるでしょ…」
 歌でも歌うか。ねこまた男道を熱唱していたら、「うるせぇぇえ!!!」と外からガラスをガンガン叩かれて焦った。前と何か変わったのかなぁ? やっぱり何にも変わってない気がする。
 むしろ前より接触が減った気がするのは気のせいか?
「じゃ、明日の三時間目、課題忘れんなよ」
「んー」
 眠い目を擦って十一時半に部屋を移動。最近はそのまま鷹臣くんのベッドでうとうとしかけたら「寝るんじゃねぇ」ってビンタしてでも無理矢理起こされる。忙しいのかな、ケチ。
 明日の英語課題のためにスパルタで頭使ったから眠たくって仕方ない。ふらふらするから手近にあった鷹臣くんの服の裾を掴んで立つ。あ、今舌打ちされた。
 おやすみー、と手を振って自分の部屋に戻ると即ベッドに倒れ込んだ。付き合うって、もっとキラキラしてるもんだと思ってた。こんなもんかー、というのが正直な感想。まぁ鷹臣くんが相手じゃあね…少女漫画みたいにはいかないよなー。
 そこまで考えて、意識を手放した。


 昼御飯はバラバラで取ったり、一部集まったり、色々だけど、その日はたまたま風紀部全員揃って(番長を除く)の昼休みとなった。
「最近真冬先輩、佐伯先生と何かありました?」
 ブフーッと勢いよくお茶を噴いた。きたねぇなぁと早坂くんがティッシュをくれる。それで口を拭きながら、「え?」と聞き返す。鋭すぎる質問をしたアッキーは「いえ、」と理由を説明した。
「別に何もないならいいんですけど…佐伯先生、最近機嫌悪いから」
「そうか?」
 天然天使な早坂くんは何も思わなかったらしい。私も早坂くんに同感だ。
「機嫌悪いのなんて、いつものことじゃん」
 いやそれもどうなんだろう、自分で言っておいてなんだけど。ふむ、と忍者は少し考え込む仕草をした。
「確かに鷹臣くんの機嫌が悪いのはいつものことだが、黒崎とは最近何かあったんじゃないのかと俺も思っていた」
「何でっ?!」
「黒崎、最近鷹臣くんを避けているだろう」
 う、と噴いた先程とは逆に詰まる。
「そ、ソンナコトナイヨー」
「喧嘩したんなら早く仲直りしとけって。後回しにすると余計拗れるぞ」
「そう言われてみれば、真冬先輩、いつもより三十センチ多く佐伯先生から距離取ってますよね」
 えっそうなの!? 知らねぇよそんなこと! よく見てんなアッキー! 動揺を隠してもう一度お茶を口にする。
「俺、てっきり佐伯先生と付き合ってんのかと思ってました、真冬先輩って」
「?! っ、ごほ、ゴホゴホッ」
「おいおい大丈夫か? …んなわけねーだろ渋谷、こいつら幼馴染みだぞ。な、黒崎」
「あぁなるほど、そういうわけだったんすねぇ」
 納得したとアッキーはしみじみ頷く。くそ、お茶が気管に入った。背中を擦ってくれる早坂くんの手つきが優しい。その優しさと生理的な理由で涙目だ。
「それでそんなに特別扱いなんですね、一応女の子だからかと思ってたら」
「女の子?」
 誰のことだそれ、みたいな顔やめてよ忍者。しかも皮肉とかじゃなく素なのが尚更悲しい。それよりも驚きの方が今はまさった。
「…え、特別扱い?」
「そうか? 全然特別扱いされてないだろ。風紀部なんか喧嘩ばっかなんだし、女なんだからもーちょい甘くしてやってもいいと思うぜ」
 あぁぁ…知らないって、無垢って天使ね、マイエンジェル早坂くん! もう! もう大好きだよ!
「いや、男女平等が原則だろう。知っているか、世の中には男女平等パンチなるものも存在するのだ。故に、仮に俺と黒崎が闘うことになったとしても、俺は一切手加減せんぞ。そげぶするぞ。甘えるな黒崎!」
 説教しながらその幻想をぶち殺すんだよね。先日『由井忍セレクト! これが今ハマっているアニメランキングだ!』で、散々布教を受けた。どうやらアリスちゃんの影響らしい。あんのコスプレメイドが。ゴリ押しされたDVDにはまだ手をつけていない。仮に、なんて言っちゃってるけど、その節はどうも、というのが口には出さない裏の現実だ。忍者は意外と喧嘩が強い。
「こら、駄目に決まってんだろ、顔に傷がついたらどうすんだ」
「は…早坂くん…もうその辺で…」
 でないと死んじゃう。サービス過多で死んじゃうよ。一人悶えてたら、いきなり後頭部に強い衝撃。前のめりに倒れる。
「大丈夫か黒崎!?」
「見事なヒットだったな。まるで狙い定めたような…これが日頃の行いの差か」
「何呑気なこと言ってんですかっ?! まさか生徒会が…! 真冬先輩死なないで!」
「…いてて…もう、何なのさ一体!」
 星が飛んだと思った。飛んできた方向を睨み付けようと振り返った。悪魔だ。ネクタイを締めた悪魔がいた。
「あぁすまん俺だ」
 無表情でぬけぬけと諸悪根源はそうほざいた。超棒読みだよコイツ。絶対わざとだ。
「野球部に投げようとして、手が滑った」
「嘘つけぇぇえ!!! 方向真逆だろうが!! 何で林の方で野球やってんだよ!」
 胸ぐら掴んで詰め寄ったが、当の本人はしれっとしている。マジ殴りてぇ。なんだコイツ。
「痛かったか?」
 急に真顔になった鷹臣くんの、大きな手が伸びてきて、頭の後ろに回され――そうになって、ぱっと飛び退いた。
「べ、別に大したことないけど」
 焦った。なんかわからんが焦った。
「…へー、そう」
 ぐん、と気圧が低くなった声に、これは相当機嫌が悪そうだと――顔を見上げたら、思いの外苦々しげな表情で、ちょっと驚いた。なんで? 鷹臣くんはするりと脇を通りすぎて、ボールを拾った。
「悪かったな。念のため頭冷やしとけよ」
 顔も見ずに、それだけ言って行ってしまった。
「…やっぱ喧嘩中?」
「怒ってたんですかね、あれ。オーラがヤバイことに…」
「ふむ。単に虫の居所が悪かっただけかも知れんぞ。あまり気にするな黒崎。冷やしておくか?」
 気にしてないよ大丈夫、ありがとう、と返して、笑ってみせた。けど、自分でもぎこちなさがわかっていた。あー、何なのよ。
 一番わけがわからないのは、なぜか少し泣きそうになってる自分だ。


「お前もわからん奴やな。それやったら何で早坂にいかんねん…意味わからんわ」
「いや、早坂くんはそういう穢れた目で見てはいけない…ピュアな存在なんだよ。そう、天使! 天使なのあの子は!」
「よし、わかった。お前、なんやかんやで佐伯と同類なんやな。この変態が近づくな」
 放課後あやべんを呼び止めて、屋上で事の次第を話した。話している内に感情が昂ってきて、あれなんか自分理不尽な扱い受けてない? って気がしてきた。「わかったから落ち着け」と言って、あやべんが買ってきたココアを差し出してくれた。私の周りの子って、どうしてこうも嫁気質が強いのだろう。或いは乙女。
「ま、でも俺もあんまおもろないなぁ」
「ん?」
「お前が佐伯と付き合うの」
 さらっと爆弾発言です、綾部さん。
「え、それは新手の告白とかそういう…ドキドキ」
「アホか、全然ちゃうわ」
 わかってるよふざけただけ、だからそんな心底嫌そうな顔しないで下さいお願いだから。
「なんか、なついとってたまに飯やりよった野良犬が、他所のペットやったんやなっていう、そんな感じ」
「せめて、とうとう可愛がってた娘が嫁にいくとか、妹が嫁にいくとか、そういう表現がよかったんだけど…」
 はぁ、と盛大なため息を吐かれる。そんなにガッカリされると思わなかったよ。
「大体なー、なんで佐伯やねん。もっといい奴周りにいっぱいおるやろ? まだ由井とかの方がマシやわ」
「え、そこで忍者?! 絶対お互いにないけど、一番ないけど」
「ほなそれこそ早坂とかでえぇやんか! 渋谷でもえぇわ、ヘタレチャラいけど。桶川でもえぇやんけ、留年番長やけど。なんで佐伯やねん!」
「そんなに言わないでよ! 自分でも思ってるんだから!」
「そもそもあいつ教師やぞ! お前、生徒やろが! 今さらやけど! 今からでもえぇ! 別れてまえ!」
「それはやだ!!」
 自分でもびっくりするくらい、大きな声だった。はっとして、そうか、私は嫌なのか、と初めて気がついた。あやべんも目をぱちくりしていた。
「え、や、あの、違くて…」
 あぁ、後から恥ずかしいパターンだこれ。失敗した。あやべんは、ふーっと呆れたような息を吐いた。それから穏やかな調子で、言った。
「…なんで俺がこんなに反対しとるか、わかってるか?」
 心当たりが多すぎてわからない。正直にそう答えたら、「お前ようそれで付きおうたな」と返ってきた。「俺も、まぁ色々理由はあるけど、」とあやべんの前置き。
「一番は、黒崎、お前絶対泣かされるやろ」
「……っ」
 さすがに効いた、その言葉は、効いた。
「大丈夫か? やから別れろって…」
「ちが、違う」
 嬉しいんだ。あやべんがそう言ってくれたことが、嬉しいんだ。
 そう告げたら、「お前、ほんまアホやな」と思いの外優しい声音で頭を撫でられた。
「…お前が泣かされとっても、俺は助けへんからな」
「…うん」
「毎回、はよ別れろ言うからな」
「うん」
 なんで、鷹臣くんなんだろう。自分のことなのに、全然わかんないや。自分でも、ろくでもない奴を選んでしまったと思っているのに。好きかって聞かれたら、たぶん私は好きじゃないって答えるのに。


 昼間のことがあったから、今晩は別々かなと思っていたけど、鷹臣くんは普通に夕飯を呼びに来た。二人でご飯を食べる回数は前より増えたかもしれない。たまたまか、気のせいか、それとも。
「あいつを誰だか知ってるかい? so,so,イカしたヒゲのアイツ☆」
 お風呂も入ったし、後は片付けて寝るだけ。食器を洗いながら、今夜もねこまた男道は最高潮だ。「ねこまーたおとこみぃちぃー!!」「うるせぇ無駄にうめぇんだよ!」と怒鳴られるが気にしない。
「何だその歌詞、渋いなお前ほんとに女子高生かよ」
「前に番長がCD貸してくれてさー、そしたら早坂くんと忍者とアッキーとでカラオケ行ったときにたまたまこの曲が出て歌ったんだ」
 早坂くんの素晴らしい発音の洋楽の後で、困っていた時に出たのがこの曲だった。以来、色んな意味で神曲だと思っている。
「あ、そ。歌に夢中で手滑らせて食器割んなよ」
「失礼な、大丈夫だって…あ、」
 ぱりん、と乾いた音が床の上に広がった。小さなお皿は呆気ないほど簡単に割れてしまった。
「……」
「……」
 サーッと血の気が引く音が聞こえた。ゆっくり視線を移して、に…にこっ、と笑ってみる。向こうもにっこり笑ってた。閻魔だ。閻魔がいる。
「てめぇ今気を付けろつったとこだっただろうが!!」
「たんっ、たんまたんまぁあ!!!」
 喉を締め上げる腕を叩いてギブアップを要求するという一通りの儀式を行った後、陶器の破片を集めにかかった。プロレスもとい力技は平気なのになぁ。昼の自分を思い出して不思議に思う。自分でも不自然なのはわかってる。だけど体が勝手に反応しちゃうんだもん。
「あ、お前素手でやるな。指切るぞ」
「大きいし大丈夫だよ、小さい子でもあるまいし」
 燃えないごみの日は明日だから、ということを考えつつ、ビニール袋に集めていく。はぁ、と頭上でため息がしたと思ったら、鷹臣くんの手が伸びてきた。
「触るな、お前絶対――」
 たぶん、止めさせようとしたんだろう。鷹臣くんが伸ばした手は、私の手を掴もうとして――だけどぱっと私が引っ込めたから、それは叶わなかった。尻餅を着いて後ろに転んだ。
「……」
「…び、びっくり、した」
 不意に尻餅を着いたことが、という意味に聞こえてたらいいなぁと期待を込めて、起き上がってお尻を叩く。うわ、剣呑な空気。やばい。
「あ…明日、燃えないごみの日で良かったよね~、後は一応掃除機で吸っとく?」
「…いや、」
「じゃあこの袋、外に出しとこうか? 私そろそろ帰るし、ついでだから――」
「真冬」
 こっちを見ろ、という意図がびしびし伝わってきて、観念した。名前を呼ばれただけでどうしてこうも言うことを聞いてしまうのか。幼少期の刷り込みとは恐ろしい。
 視線を合わせた鷹臣くんの目は、じっと私を観察していた。内心まで、読まれそう。意外なことに、それほど怒ってないように見える。だけど相手は佐伯鷹臣という名の暴君だ、油断は出来ない。だから、すっと鷹臣くんの指先が、私の手を掴んだ時も、どうしたらいいかわからなかった。振り払いたい、振り払えない。はっきり言って、キャパオーバー、パニックだ。蛇に睨まれた蛙のように、じっとしていた。鷹臣くんの握り方は、そんなに強くなかったから、振り払おうと思えば振り払えたはずなのに、変に力が入って上手くいかない。振り払いたい、逃げ出したい。この空気に耐えられない。
 だって、いつもの私でいられない。
「ほら、やっぱ、切ってやがった」
「…へ?」
 ん、と掴まれたままの指先を目の前に示されて、あ、と気がつく。いつの間に、と自分では気がつかなかったけど、人差し指からは血が流れていた。
「どんくせーお前のことだから、絶対切ると思ったんだよな」
 ごみ袋寄越せ、言われるがままに渡すと、鷹臣くんはそのまま玄関に置きに行った。私はというと、肩の力が抜けて、ほっとしていた。何なのさ、もう。調子狂う。指先を私に突きつけた時の、珍しく照れたような顔がなんだか忘れられない。あの顔は、卑怯だよ。くそっ、暴君のくせに。時々、思い出したように優しくするから、対処に困る。どんな顔したらいいのかわからない。
 いつ切ったのかね、と右の人差し指をぺろりと舐める。ちり、と微かな痛み。あー、これ後から地味に痛い系だ。しかも利き手だし。一瞬、拭われた血液は、再び傷口からうっすらと、唾液で滲んでさっきより酷く見える。
「絆創膏、貼っとくか?」
「うーん、利き手だから、一応」
 でもすぐに取れちゃうんだよな、お風呂とか。救急箱を漁って絆創膏を手にした鷹臣くんが、ベッドで手招きしている。手当てしてくれるらしい。どういう風の吹き回しだ。
大人しく向き合うように隣に座って、右手を委ねる。くすぐったくなるほど慎重に、鷹臣くんは手を掬って――ゆっくりと、人差し指を口に含もうとした。
「ちょっ、何す…!!」
「黙ってろ」
 今度こそ逃げようと力を込めて引くけど、ぴくりとも動かない。この馬鹿力め。
「あっ…あー! あーあーあー!!」
「うるさい、先に口塞ぐぞ」
「っ…!!」
 たぶん今の私は耳まで真っ赤だ。なんなんだよ。なんなんだよ! さっきまで照れてたじゃん! この変化についていけない。これだから嫌なんだよ!
 赤い舌がちろりと見えて、かっと全身の血が沸騰した。恥ずかしい。なにこれ。意味がわからん。ちょっとは照れろ。声を大にして全然関係ないことを叫びたい。それか、猛ダッシュで家に帰りたい。
 ちろちろと指先を擽るように舐められて、じんじんする。人差し指だから、余計に。じんじん、熱が溜まっていく。口の中に含まれて、泣きたくなった。熱い舌に包まれてるのがわかる。じんじんする。腰の奥。ちぅ、と吸われると、変な気分になる。体が勝手に反応してしまう。跳ねそうになる。かり、と歯を立てられて「んっ、」と変な声が出た。もう死にたい。
「や、やだ、やめ、たかおみくん」
 自分の体じゃないみたいだ。こわい、だってこんなの知らない。ついていけない。
 鷹臣くんはこちらのことなんかお構いなしに、熱心に指を舐めている。鷹臣くんの口の中、歯列、舌の動き、唾液の感触。全部知ってしまう、わかってしまう。知らしめられている。教え込まれている。刻まれて、刷り込まれている。下半身に、変に力が入る。
 熱、熱が、腰の奥が、脚の付け根の奥が。
「やっ…だぁぁ、こわい、たかおみくん、たかおみくん!」
 ぴた、と唐突に舌の動きが止んだ。私はなぜか涙目で、体を震わせていた。ゆっくりと手が解放される。
「あー…悪ぃ」
 舌打ちが聞こえたけど、恐らく自分に対してらしい。頭を掻く顔は、困ったようで、不機嫌そうで、ちょっと赤い。だからその顔は卑怯だっての。その顔を見て、なんだか許してしまった。
「なんつーか、大丈夫か?」
「う、うん」
 体の震えがなかなか止まらない。はぁ、と息を吐いて熱を逃がす。ち、とまた舌打ちが聞こえた。仏頂面が視線を逸らしながら言う。
「なにさ、」
「…そんなに嫌だったか?」
 不機嫌な口調が、心許ないものに思えて、仏頂面も途方にくれてるように見えて、その時やっと、あぁ、鷹臣くんもどうしたらいいのかわからないんだ、って気がついた。どう触れたらいいのか、わからないんだ。
「そうじゃないよ」
 よしよし、膝立ちで鷹臣くんの頭を抱えて髪の毛を撫でる。このクソガキ、という可愛くない呟きが喉の辺りから聞こえたけれど、無視だ無視。
「びっくりしたんだ。よくわかんないし、慣れてないし」
 たぶん、色んなことに慣れてない。ほんのちょっと、普段は気づかない程度に混じるようになった甘さだとか、距離の取り方だとか。それは、きっと、鷹臣くんも同じなんだろう。とんとん、と一定のリズムを刻んで宥める。すり、と擦りよられてくすぐったい。可愛くないくせに、可愛い。鷹臣くんのくせに生意気な。
「あーー…、お前相手だと、調子狂う」
 呻くように呟いて、腰を抱えられて一緒にベッドの上に倒れ込んだ。「ちょっと!」と文句をつけようとしたら、「うるせぇ、何もしねーよ」との宣誓。信じていいんだろうな。このまま寝入りそうな雰囲気。いつかみたいに、腕枕をされた状態で体を預ける。喉仏が目の前にある。触ってみたくって、ちょっと躊躇う。そっと触れたら、「くすぐってぇ」と声が降ってきた。
「猛獣使いってこんな感じなのかなぁ」
 もしくは月夜の晩にオカリナ吹いてる某巨大生物を撫でる少女の心持ちだ。なんか知らんが楽しい。
「おま…いつか絶対襲うからな」
 面白がってるのがバレたらしい、不穏な台詞があったがスルーする。だけどちょっと酷かなとも思えたので、寝入る寸前に返したのは、多分に甘さを含んだ言葉。
「…いつか、ね」
 好きかと聞かれたら、たぶん好きじゃないって答える。でも嫌いかって聞かれたら、「嫌いだ」とは言えない。小憎たらしいという言葉が一番しっくりする。なのに時々触れたくなる。自分でもよくわからない。鷹臣くんも、そうだといい。
 起きたら今度こそちゃんと絆創膏を巻いてもらおうと決めて、絡めた指はそのままに意識を手放した。
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プロフィール

HN:
黒蜜
性別:
女性
自己紹介:
社会人。
亀更新、凝り性で飽き性。
NL偏愛。
葛藤のあるCPだと殊更ハマる。
王道CPに滅法弱い。それしか見えない。

取り扱いCP:リクつら・名柊(夏目)・ネウヤコ(弥子総受け)・通行止め・イチルキ・ギルエリ・鷹冬(俺様)・殺りん・男鹿ヒル・銀妙・ルナミetc
その時々に書きたいものを、書きたいペースで。

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